2011 Fiscal Year Annual Research Report
ポスト新自由主義の福祉国家研究―国家の役割の再検討
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11J10065
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
尾玉 剛士 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 福祉国家 / 新自由主義 |
Research Abstract |
本研究の目的は1990年代以降の諸改革を通じて先進福祉国家における国家の役割がどのように変容したかを給付・規制・中央地方関係の三つの視点から総合的に明らかにすることである。とくに、新自由主義的改革:以降の政策調整によって国家の役割が強化された側面に着目し、調整の背景にある政治的なメカニズムの解明を目指す。 研究計画に従い本年度は二つの課題に取り組んだ。第一に、1980年代以降の先進福祉国家の量的な変化の見取り図を示す作業に取り組んだ。OECDのSOCXを用いて総社会支出の対GDPは上方収斂しており、底辺への競争は生じていないことを確認した(先発国では停滞がみられるものの後発国がキャッチアップしている)。また、OECD、Eurostat、各国政府の統計資料を利用して総税収規模と社会保障財源の構成に関するデータの整備を行った。OECD加盟国における総税収対GDP比は拡大傾向にあり、大陸ヨーロッパ諸国では社会保険料から税への社会保障財源のシフトが発生していた。以上の作業によって福祉国家の支出水準と財源構成の変化について大きな見取り図を描くことができた。 第二に、以上のようなマクロ的な傾向の検討に加えて、個々の政策プログラムに着目したより詳しい分析を行った。まず、先進福祉国家(とくにアメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・日本)における年金・医療保障・失業補償の部分的民営化と給付水準の引き下げに関する情報の整理を行った。他方、西ヨーロッパでは1990年代から、日本では2000年代後半から始まった社会保障の機能強化型の改革に関して、社会的排除対策・低所得者対策・およびそれらに必要な財源対策という観点から事例研究の蓄積に取り組んだ。そうした事例研究を通じてポスト新自由主義期の社会保障改革の政治的メカニズムの解明を行うことに本研究の意義があり、来年度も引き続き研究を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に従い、福祉国家の支出・財源に関するトレンドの分析と各国別の主要社会政策プログラムの給付水準・支出規模のより詳しい検討の双方において着実に前進することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が対象としている各国の社会保障改革の専門家(国内および現地の研究者)との議論を活発化することで有益な知見を得ることができるだろう。また、本年度は研究基盤の整備に注力したため研究成果の公表には至らなかったが、今後は成果公表を通じて得られた反応を活かすことでさらに研究を推し進めていきたい。
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