2012 Fiscal Year Annual Research Report
ポスト新自由主義の福祉国家研究--国家の役割の再検討
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11J10065
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
尾玉 剛士 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 福祉国家 / 新自由主義 |
Research Abstract |
本研究の目的は、第一に1990年代以降の諸改革を通じて先進福祉国家における国家の役割がどのように変容したかを給付・規制・中央地方関係の三つの視点から総合的に明らかにすることと、第二に新自由主義的改革以降の政策調整によって、国家の役割が強化された側面に着目し、調整の背景にある政治的なメカニズムを解明することである。 昨年度に引き続き本年度も量的なアプローチと質的なアプローチの両面から先進福祉国家における国家の役割の変容の解明に取り組んだ。量的なアプローチでは、1980年代以降の先進福祉国家における社会支出の規模に関する研究を推し進め、社会支出の内部では現金給付に対して現物給付の比重が大きくなっていることを確認した。つまり、年金・医療保険・失業補償などの給付水準に低下が見られる一方で、福祉国家の政策の力点が所得代替から介護・保育などの「新しい社会的リスク」への対応へと移行していることを指摘した。また、福祉国家の財源面では昨年度の検討に加えて、全般的な傾向として社会保険料のなかでは被保険者が負担する保険料の割合が増大する傾向にあることが判明した。 質的なアプローチでは、福祉国家の規制面での対応の推移へと研究を進めた。私的年金に関しては会計基準の改正、監督・受給権保護の強化、医療については費用の合理化とサービスの質の維持のための社会保障基金や医療機関への規制強化という観点から、それぞれ事例研究の蓄積に取り組んだ。 財政制約の下での現物給付の拡大や国家による規制役割の強化は、単に給付の削減によって社会保障制度(そして国家財政)の財政均衡を維持することが現代の福祉国家の政治の課題ではなくなっていることを示しており、こうした国家の行動形態の背景にあるメカニズムを解明することに本研究の意義がある。こうした観点から来年度は研究の総括に取り組みたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に従い、先進福祉国家の規制面での対応の推移に関する事例研究と、国家の役割強化が生じたメカニズムの検討の双方において研究を進めることができた。また、昨年度から行ってきた福祉国家の支出・財源に関するトレンドの分析を推し進め、支出・財源双方についてより詳しい内訳の変化を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、本研究が対象としている各国の社会保障改革の専門家(国内および現地の研究者)との議論を活発化することで有益な知見を得ることができるだろう。また、本年度は国内学会において研究成果の一部を公表することができたが、論文の公表には至らなかった。今後は学会発表を通じて得られたコメントを活かし、活字での成果公表を目指して研究を進めていきたい。
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Research Products
(2 results)