2012 Fiscal Year Annual Research Report
情報技術時代の主体と他者-技術と人間の相互作用に関するネオサイバネティクス的研究
Project/Area Number |
11J10104
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
原島 大輔 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | ネオサイバネティクス / 情報技術 / 主体性=主観性 / 他者性 / コンピュータ / プログラミング / ネットワーク / 音楽 |
Research Abstract |
本研究の目的は、20世紀中盤以来の情報技術時代に特徴的な主体と他者の構成について一つの理解の枠組みを提示することである。とりわけ情報技術環境の発展において伏流的ではあるが重要な思想的基盤の一部を構制してきたネオサイバネティクス(数理的情報理論やサイバネティクスを端緒にしつつも、抽象的・客観主義的理論にとどまらず、観察者や主観性や身体性に関わる諸問題を引き受けた上で、通信やネットワークや生態系や協働について探求してきた思潮)に着目する。そこでしばしば議論されてきたシステムの閉鎖と開放についての問題やシステムとその諸環境の結合についての問題が、まさに相対化・自閉化・分断化を特徴とする情報技術時代的な主体や他者についての理解にとって示唆的であることを指摘しつつ、これを手掛かりとして同時代の技術環境における主体と他者の構成について批判的に考察することを目指している。 本年度の研究計画としては以下の二つを軸に据えていた。一つは、認識論的に閉鎖しだシステムとその環境との関係性についてのネオサイバネティクス的な諸先行研究の考え方を整理し、同時代的な主体と他者についての一つの考え方としての意義を評価することである。本年度中には成果発表には到らなかったが、次年度での発表を目標に作業を進めている。もう一つは、情報技術を人間が使用する経験を通じて構成される思考様式や身体性が、どのように技術と人間とのあいだで相互構成されているかについて、研究者自身の技術経験を通じて探求することである。具体的には、プログラミングによるオーディオやヴィデオやインスタレーションの制作活動に携わり、そこで得られた知見は二つの学会発表に結実した。一つは、コンピュータ音楽プログラミング環境の設計理念やその実際の実装が時代を下るにつれて生態学的・相互依存的になってきていることを指摘し、もう一つは、その主張を発展させ、ネットワーク音楽文化を理解するための時代区分を提案した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ネオサイバネティクス的諸思想の整理や、情報技術環境での行為についての具体的事例の観察と考察を積み重ねてきたことにより、情報技術時代における主体と他者の構成について、ネオサイバネティクスに着目することによる一つの理解の枠組みを、具体的な時代区分として提案することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
ネオサイバネティクスの思想的整理や、情報技術と人間の相互構成についての具体的事例についての観察と考察が蓄積されてきたことで、情報技術時代の主体性や他者性についての、ネオサイバネティクスに着目することによる一つの理解の枠組みとして、有効な時代区分が可能ではないかという仮説を立てるに到っている。今後はこれをより広く文化的文脈のなかにおいて批判的に検討することを通じて洗練させることになる。端緒として、ネオサイバネティクスを代表するオートポイエーシス論にもしばしば言及しながら、環境や生態学や情報技術や主体性=主観性の生産や特異性についての文化論的諸考察を遺したフェリックス・ガタリに注目し、ネオサイバネティクスとその他の同時代的な研究との接点を増やす作業にも着手しはじめており、今後はこの方向での展開も目指す。ただし、次年度に最も注力したいのは、これらの成果を論文のかたちで発表することである。
|
Research Products
(2 results)