2011 Fiscal Year Annual Research Report
有限密度QCDへの応用へ向けた複素ランジュバンシミュレーションの研究
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11J10149
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Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
佐野 崇 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 量子色力学(QCD) / QCD相図 / カイラル相転移 / 格子QCDシミュレーション / 符号問題 / ランダム行列模型 / 確率過程量子化 |
Research Abstract |
私はQCDの非摂動的振る舞いに興味があり、特に当該年度には、有限温度有限バリオン数密度におけるQCD物質の相構造の解明について研究を行った。 第一に、有限密度QCDへの応用を目標として、複素ランジュバンシミュレーションの研究を行った。有限密度QCDには符号問題が存在するため、通常の格子QCDシミュレーションの方法が使えない。一方、複素ランジュバンシミュレーションには符号問題が現れないため、有限密度QCDを数値的に解くことが可能であるように思える。しかし、実際には、複素ランジュバンシミュレーションの解が、求めるべき正しい解になっていることについて、数学的に満足の行く証明はない。私は、複素ランジュバンシミュレーションの方法を、解析的に解くことのできるランダム行列模型に適用して、その手法の可否を調べた。我々のシミュレーションでは、多くの領域において、複素ランジュバンシミュレーションが正しい解を再現することを確かめたが、カイラル相転移の周辺においては、有意な差を発見した。この領域では、符号問題がもっとも厳しくなっていると考えられるため、複素ランジュバンシミュレーションにおいても、表面的には現れない符号問題が、問題を引き起こしている可能性を示唆している。 第二に、有限密度QCDの模型としてのランダム行列模型を、高密度極限にて予言されているcolor-flavor-locked(CFL)相までも扱えるように拡張する研究を行った。同様の拡張は、2フレーバQCDにおけるカラー超電導相に対して行われており、本研究はそれを3フレーバに拡張したものである。QCDと同様のカイラル対称性とパリティ対称性を要求することで、模型の相図は一意に定めることができる。相図には、低密度側にカイラル凝縮相が、高密度側にCFL相が自然に現れた。特に、パラメータのフィッティングを行わずとも、他の模型と同様の結果が得られたことは、非常に興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
RM模型を用いたシミュレーション自体は順調に行えたが、その結果の解釈に手間取っている。RM模型は解析的に解けるが、一方で多自由度系であり、ダイナミクスがどうなっているかを調べることは、比較的単純なRM模型でもかなり難しい。
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Strategy for Future Research Activity |
ランジュバンダイナミクスをより詳細に検討するために、ランダム行列模型に対して何らかの展開を行い、模型の簡単化を行う。これにより。例えばランジュバン方程式の固定点を求めることが可能になると期待している。さらに、ランダム行列模型以外の、比較的簡単な模型(Bose gas模型など)に対しても計算を行い、ランジュバンシミュレーションの適用限界を探る。
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Research Products
(4 results)