2011 Fiscal Year Annual Research Report
王権と公論をめぐる秩序構想―阪谷素・中村正直・西村茂樹を中心に
Project/Area Number |
11J10278
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
李 セボン 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 阪谷素 / 中村正直 / 西村茂樹 / 儒学 / 道 |
Research Abstract |
平成23年度は、阪谷素の「民権」運動期初期における問題意識を論文として発表し、国際シンポジウムにおいて19世紀日本における儒学者のあり方の例として阪谷を挙げ二回にわたり口頭発表できた。課題名にある中村正直や西村茂樹については、まず主な文献を綿密に検討し、各々の時期別の問題意識を整理した。 1.阪谷素の明治期の史料を手がかりに、明治八(1875)年(『明六雑誌』廃刊の年)以降の、彼の晩年の問題意識の解明に努めた。従来の阪谷研究において、明六社における活動期間以後に注目したものはほとんど皆無であるが、彼はその後も引き続き別の結社の機関誌などを通じて発言しており、その内容の分析無しに阪谷の思想の全貌を知ることはできない。そこで、『洋々社談』、『修身学社叢説』、『東京学士会院雑誌』に掲載された彼の論説や演説文のテクスト分析を行った。また、同時期の新聞への投書、あるいは建白書の自筆本なども綿密に検討することによって、より立体的な像を描けることが可能になった。 2.中村正直の漢文全集に当たる『敬宇文集』を主な一次史料として使いながら、中村の学問的な関心とキリスト教への接近との関係を中心に研究を進めた。また、彼の代表的な訳書である『西国立志編』(原著:Self-help,Samuel Smiles)と、明治八年に彼が訓点を付けて広く読まれるようになった中国からのキリスト教概説書の『天道溯源』(William A.P.Martin著(中国名;丁〓良)、漢文)を精読し、中村の思想形成の背景を深く探る作業をも並行している。これらの作業を通じて、中村が西洋から摂取した「教」の内容が具体化できた。 3.西村茂樹については、東京修身学社時代から『日本道徳論』刊行期(1876年から1887年)までの「道徳」論の軌跡をたどる作業を行った。当年度は、西村自体に焦点を当てるより、上記の阪谷・中村の普遍的な「道」の追求というスタンスとの比較軸として西村を用い、前者の浮き彫りに集中した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した「研究の目的」及び「研究実施計画」における研究の順序を、年度の途中で変更したことにより、史料解読の速度が計画以上に上がらなかった側面がある。つまり、当初、先に西村に重点を置く計画を立てたが、以前からの研究対象である阪谷との繋がりを考慮した際、中村の分析を先行させる必要性が生じたからであった。しかし、全体としては期待通りの進展具合であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、基本的に前年度からの史料読解を継続しながら、論文と学会報告の形で発表する。前年度からの蓄積をもとに博士論文の作業を続ければ、特に問題点はないだろうと思われる。
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Research Products
(3 results)