2012 Fiscal Year Annual Research Report
集合的罪悪感の促進が集団間葛藤の解決に至る心理的過程の解明とその応用
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11J10368
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
後藤 伸彦 名古屋大学, 大学院・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 集合的罪悪感 / 集団間葛藤 / 赦し |
Research Abstract |
集合的罪悪感とは、「集団の一員として自分の属する集団の不当な行為に対して経験される罪悪感」と定義され、謝罪意図などを高めることで集団間葛藤の解決に重要な役割を果たす感情として社会心理学の分野で多くの研究が行われている(Branscombe & Doosje,2004)。本年度は特に、加害集団からの集合的罪悪感の表明が集団関係に与える影響、また集合的罪悪感の表明に加え、加害行為再発防止へのコミットメントを伝えることが集団間関係にどのような影響を与えるのかを検討する実験を実施した。また罪悪感の表明とそれを受け取る個人差の要因がどのように外集団認知に影響するのかも検討した。 実験では、過去の戦争行為に関して、その行為をした国に属する今日の成員らが「罪悪感を持っている」と表明している文章を提示する条件、または「罪悪感はない」と表明している文章を提示した。その結果、罪悪感の表明は「加害国の今日の成員らに過去の戦争行為に関して罪悪感を持ってほしい」という期待を表す「集合的罪悪感要請」の程度に関係しないことが明らかになった。 その一方で、罪悪感に加え加害行為再発防止へのコミットメントを表明した条件では他の条件に比べて有意に集合的罪悪感要請の程度が低下することが明らかになった。つまり、将来へのコミットメントへの表明こそが被害者集団からの赦しの生起に関係することを実験で明らかにした。 またあらゆる人が加害集団の集合的罪悪感の表明から一様に影響を受ける(または受けない)わけではなく、自己が周りから正当に扱われている(自己の公正的世界信念)と感じている人ほど、加害集団が過去の行為に対して罪悪感を「感じていない」と表明した場合に「感じている」と表明した場合と比べて、罪悪感要請の程度が強まることが明らかになった。 これらの結果は、過去の加害行為に関してであっても、将来への行動意図や個人の信念が影響を及ぼすことを示す、極めて独創的な研究成果であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は被害集団からの赦しの生起の検討を行った。このことを「集合的罪悪感」という概念から検討した研究は他にはなく、大きな特徴である。またこれまで集団間葛藤の解決に重要であると考えられてきた集合的罪悪感が、被害集団からの赦しの生起には重要な役割を果たさないこと、さらには将来へのコミットメントが重要であることを明らかにしたことは重要な進展である。さらに個人的な信念が集団間関係の認知に影響を及ぼしてることを明らかした。これらを総合して、研究の目的はおおむね順調に達成されていると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、加害集団からの集合的罪悪感の表明は、集団間関係の改善に重要な役割を果たさないことが明らかになった。他の研究においては怒りや恥と言った感情が検討されているが、いずれも集団間関係に充分にポジティブな影響を与えるとはいえない。今後はこれまで検討されてこなかったよりポジティブな感情(例:感謝や希望)を検討していく必要があろう。
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Research Products
(6 results)