2012 Fiscal Year Annual Research Report
後期スコラ哲学との比較に基づいたデカルト存在論の体系的研究
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11J10398
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
今井 悠介 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | デカルト / スコラ哲学 / 存在論 / 区別の議論 / スアレス |
Research Abstract |
本研究は、アリストテレス-スコラ的な類種概念による秩序から別の秩序への転換という視点を軸に、デカルトの存在論の特質を描くことを目的としている。本年度は、デカルトの区別の議論と近世スコラのスアレスの区別論の比較検討、および同じく近世スコラのエウスタキウスのテキストの検討を行った。また、デカルトの存在論の体系構成について、その認識論との交錯に注日して研究した。1.デカルトとスアレスの区別論の比較検討。前年度の研究で明らかになったデカルトの存在論の構成における区別の議論の重要性から、デカルトが影響を受けたと思われるスアレスの区別論との比較検討を行った。その結果、デカルトの区別の議論の根幹のアイデアはスアレスに由来し、デカルトの議論に見出される三種の区別の原型を形づくったのはスアレスであったこと、またその一方で、区別の徴表の議論に関して、スアレスとデカルトに差異があることを明らかにした。デカルトにおいては思惟による分離可能性が実質的に必要十分条件として三種の区別を形成しており、そのことによってこの思惟による分離可能性を一元的な軸として、実体、属性、様態という実体論のカテゴリーが形成されており、区別の議論が実体論の根底をなしているが、スアレスにおいては、あくまで区別の徴表の一つでしかない分離可能性が実体論のカテゴリーを形成するまでには至っていないという、両者の構造上の差異を明らかにした。2.エウスタキウスとデカルトの比較研究について。デカルトが『哲学原理』を書くにあたって参照したというエウスタキウスのテキストを検討した。エウスタキウスも分離可能性を区別の徴表として用いており、また、スアレス同様に分離可能性を区別の唯一の徴表としては用いていなかったことを明らかにした。次年度は、デカルトの存在論の特質について、従来のカテゴリー論との関係から、何が刷新されたのか、全体的な検討を加えたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
元々の計画にあった実体論、およびカテゴリー論の比較検討は十分に行えていないが、研究の進展に伴い、単純に実体論、カテゴリー論を比較しただけでは当初の目的(スコラ哲学からデカルト哲学への存在論における概念枠組の変化を明らかにすること)を達成できないことが明らかになったので、計画を変更し、デカルトの存在論の根底にあると思われる別の議論(区別の議論)を、スコラ哲学と比較した。その結果、目的の一部である、スコラ哲学との構造上の差異を部分的に明らかにすることに成功したので、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
概念枠組の変化を比較検討するための視座を求めて、エウスタキウスやコインブラ書のカテゴリー論を研究し、デカルトにおける同種の議論との比較検討を行う予定である。当初予定していた様相論の研究は、あまり存在論の構造上の変化に関わらない可能性があり、前者の研究と平行して行いながら、どこに重点を置くかを見極めながら進めたい。また、マリオンによるデカルトの存在論解釈を批判的に検討しつつ、デカルトの存在論の特質について、全体的に検討する予定である。
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Research Products
(2 results)