2011 Fiscal Year Annual Research Report
情報渋滞の観点からの読み書き困難の分析と支援―デジタルペンを用いた時系列解析―
Project/Area Number |
11J10701
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
平林 ルミ 東京学芸大学, 教育学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 読み書き困難 / 書字行動評価 / 情報渋滞 / デジタルペン / 代替措置 / 小学生 |
Research Abstract |
読み書き困難を「情報渋滞」という観点から検討し、読み書きに困難を抱える子どもたちの教育ニーズに応じた情報提示の方法を検討することが本研究の目的である。本研究は医学的定義における読み書き障害だけでなく,読むこと書くことが同年齢平均よりも著しく遅いこと,誤りが多いことを読み書き困難ととらえ,より広義の読み書き困難を分析・支援する。したがって,まず読み書きの行動を測定し,その困難を定量化することが必要となる。初年度の2011年度は,2007年からデジタルペンを用いて継時的な書字行動データを取得している金沢市の小学校3校のデータを,停留時間という観点から分析し,書字の連続性とそこにみられる書字行動パターンについて研究を実施した(研究(1))。そしてこの成果を学会誌に投稿した。研究(1)から書字行動の連続性について,通常発達における一般的なパターンが明らかとなった。この研究成果により標準発達を参照して書字困難事例の分析が可能となったため,並行してすすめていた書字困難事例の分析(研究(2))においてはこの研究成果を活用した。 研究(2)においては読み書き相談室に来室した読み書き困難を有する小学生9名を対象として,デジタルペンを用いた書字行動の分析を行い,情報渋滞という観点から事例の分類および解釈を行った。書字運動を実行している時間と停留している時間という観点で解析した結果,読み書き困難を有する児童の書字困難を情報渋滞の観点から3つのタイプに分類することができた。この分類は支援技術を用いた代替アプローチと直接的に結びつけることが可能であることから,書字困難を有する児童の書字評価法として意義が大きいと考えられる。研究(2)の一部について学会においてポスター発表を行った。2012年度には学会誌に投稿する予定である。また,読み書き障害のある中学生についてデジタルペンを用いた書字行動評価を含む各種の認知検査を行い,定期試験において代替措置を求めた。評価結果とそこから明らかになった読み書き困難の背景要因および代替措置申請の経緯を事例研究にまとめ学会誌に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
見本を書き写す視写行動の分析は順調に進展しているが,音を聞き取って書く聴写行動の分析は十分ではない。しかし,聴写のデータ取得は終えていることから,次年度において分析プログラムの開発を行い,分析を進める必要がある。聴写の分析は音と形の結びつきが弱いタイプの読み書き困難児童の評価に重要な観点であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
日本語における見本の書き写し(視写)行動の解析は順調に進んでいるため,2012年度においては英国のサウサンプトン大学に1年間滞在し,英国の通常の小学校およびディスレクシアを専門とする小学校において英語の書字行動のデータ取得と解析を行い,英語と日本語の比較を行う。また,これまで書字行動データの解析は自動化できていなかった。そこで,サウサンプトン大学ではコンピューターサイエンス部門に籍を置き,サウサンプトン大学の研究者と共同で書字行動の解析システムの開発を行う。これにより,現在進行が遅れている聴写の分析に関しても研究が進展すると考えられる。
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