2012 Fiscal Year Annual Research Report
科学知・科学技術の生産過程に社会的マイノリティーが参加するための方法の検討
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11J10783
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Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
渡部 麻衣子 東京大学, 大学院・情報学環・学際情報学府, 特別研究員(PD)
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Keywords | 出生前検査 / フランス科学認識論 / ルーピング効果 / ダウン症 |
Research Abstract |
まず文献調査においては本研究が基盤とすべき理論を検討した。その結果、前年度より着目しているイアン・ハッキング(Ian Hacking)の「ルーピング効果」をめぐる議論に加えて、医学における「正常」と「異常」の分類の成り立ちを批判的に検討したフランス科学認識論、中でもその始祖であるジョルジュ・カンギレム(Georges Canguilhem)と、日本におけるその継承者である金森修の論に注目すべきことを確認した。 次に、前年度、既に英国で4名のダウン症のある子を持つ親にインタビューを行なっているが、24年度は、8月に、英国と同様の医療制度を持つニュージーランドにおいて、国際的に重要な活動に取り組んでいる親2名、及びニュージーランドダウン症協会からの紹介を受けた親2名の、合わせて4名にインタビューを行なった。また日本においては、英国ダウン症協会主催の写真プロジェクトを紹介する企画を遂行する中で、日本ダウン症協会との協力関係を深めている。ダウン症を持つ本人へのインタビューについても、概ね許可を頂いており、今後協力して詳細を決定していく予定である。 24年度は、いくつかの機会に行なった口頭発表を通して分析及び考察を深めることができた。その暫定的な成果は、現在科学技術社会論学会誌に論文を投稿中である他、生活書院において計画されている編著のひとつとして執筆した。尚、昨年度Disability and Societyに投稿中であった原稿は、現在再投稿準備中である。 その他、24年度は本研究と関わる重要な事象として、国内数施設で臨床研究として所謂「新型出生前検査」の提供が開始されたことがある。出生前検査の倫理的課題に関わる研究者として、メディアからの問い合わせに対応した他、提供指針を発表した日本産科婦人科学会に対し、策定過程において意見書を提出する取り組みに参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
24年度は、本研究と関わる重要な社会的事象が発生したため、それをめぐる考察と議論を通して本研究の基礎となる理論をほぼ確定することができた他、計画段階で考えていた以上に研究の社会的重要性が増した。そのため、理論と実践の両方で計画以上の進展があったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
「新型出生前検査」の臨床研究開始を受けて、本研究の社会的重要性は増していると考えている。社会における実践的な議論に寄与するためには、事象の理論的な分析を欠かすことができない。24年度は理論的分析の足がかりとしてフランス科学認識論に着目する指針を得たが、その理解は未だ不十分である。そこで、今後は、受入研究者の助言を得ながら、この点を計画的且つ体系的に補っていきたい。 同時に、考察を深める上でも、今後は執筆、発表にも力を入れていく必要があると強く認識している。
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Research Products
(4 results)