2011 Fiscal Year Annual Research Report
心臓のストレス応答における脂肪酸代謝の意義と機能についての網羅的解析
Project/Area Number |
11J10879
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Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
遠藤 仁 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 心臓肥大・心不全 / ω3系多価不飽和脂肪酸 / 心臓リモデリング / 脂質メディエーター / 脂質メタボローム解析 |
Research Abstract |
ω3系多価不飽和脂肪酸(PUEA)は、古くから疫学調査で心血管保護作用が示唆されており、すでにいくつもの大規模臨床試験がおこなわれ、症候性慢性心不全の予後改善や心筋梗塞の二次予防効果が確認されている。しかし、その機構については依然不明な点が多く、私はこのω3PUEAが有する心血管保護効果の分子機構の解明を目的に研究を開始した。 遺伝学的にω3PUEAが体内に豊富に存在するω3PUEA変換酵素fat-1の遺伝子改変マウス(fat-1 Tg)を用いて、大動脈縮窄による心肥大・心不全モデルを作成し、圧負荷による心臓リモデリングにω3PUFAがどのような影響を及ぼすか検討した。心肥大について心重量、左室壁厚、心筋細胞径で評価した限り、fat-1 Tgマウスは野生型マウスと比し有意な差は見られなかった。しかし、心機能については術後4週に野生型マウスで駆出能の低下を示したのに対し、fat-1 Tgマウスの心機能は保持されていた。また、fat-1 Tgマウスの圧負荷肥大心の組織像は、間質の線維化およびマクロファージの浸潤が野生型に比し顕著に軽減していた。これら機能および組織の両面から、ω3PUEAが心臓リモデリングを積極的に抑制していることが明らかになった。さらに、fat-1 Tgマウスの骨髄を野生型マウスに移植したキメラを作成し、その上で大動脈縮窄心肥大を誘導したところ、fat-1 Tgマウスと同様の肥大刺激に対する強い抵抗性を示した。このことから、骨髄由来細胞がω3PUEAによる心血管保護効果に重要な役割を担っていることが示唆された。 現在、この実験モデルで認められたω3PUEAの心臓リモデリング抑制効果と、その責任細胞と考えられる骨髄由来細胞とをつなぐ鍵分子として、レゾルビンやプロテクチンに代表されるω3PUEA由来の抗炎症性脂質メディエーターに注目し、脂質メタボローム解析を開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ω3PUEAの心血管保護効果の分子メカニズムを解明するうえで、最適なモデル動物を利用することが実験計画の遂行に必須と考えられるが、いま実験に用いているfat-1 Tgマウスの圧負荷心肥大モデルは、野生型マウスと顕著な表現型の相違がみられ、非常に有用なモデルといえる。このモデルマウスを見出せたことで、実験の進行が速やかとなり、建設的な解析が可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、現在開始したLC-MS/MSを用いた肥大心臓の網羅的な脂質メディエーター解析を精力的に行っていきたいと考えている。他の組織に比べ心臓のω3PUEA代謝産物は決して多くなく、脂質メディエーターの炎症局所ではたらき速やかに代謝されるという性質から、検出は困難であることが予想されるため、検出感度を上げる方法や条件を模索する必要がある。また、骨髄由来細胞の寄与については骨髄移植実験で肯定的な結果が得られたが、逆に線維化をきたす本体である間質の線維芽細胞については解析を進めていないため、並行してfat-Tgマウスをレシピエントとし野生型マウスをドナーとする骨髄移植実験や心臓線維芽細胞の細胞増殖アッセイなどを行っていく予定である。
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