2012 Fiscal Year Annual Research Report
心臓のストレス応答における脂肪酸代謝の意義と機能についての網羅的解析
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11J10879
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Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
遠藤 仁 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 心臓肥大・心不全 / n-3系多価不飽和脂肪酸 / 心臓リモデリング / 脂質メディエーター / 脂質メタボローム解析 |
Research Abstract |
エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)に代表されるn-3PUFAが心血管保護作用を有することは広く知られているが、その詳細な機構については依然不明な点が多い。 平成23年度に、n-3PUEA変換酵素fat-1を全身に発現させたfat-1マウスを用いて大動脈縮窄による心肥大・心不全モデルを作成したところ、心肥大に有意な差はなかったが、間質の線維化および炎症細胞(おもにマクロファージ)浸潤の減少がみられ、心機能が保持されていた。そこで、本年度はn-3PUEAが有する心血管保護効果の責任細胞を同定する目的で、fat-1マウスの骨髄移植キメラマウスで同様の圧負荷心不全モデルを作成し解析を行なったところ、骨髄由来細胞の脂肪酸組成がn-3PUEA優位の条件で心臓リモデリング抑制効果を示し、骨髄由来細胞の脂肪酸組成が重要であることが示唆された。次に、炎症細胞と心臓線維芽細胞のin vitroでの共培養実験を行なったところ、in vivoの結果と同様に、脂肪酸環境の変化に応じてマクロファージが産生する液性因子の質や量を変化させて、心筋線維芽細胞の活性化を調節していることが示唆された。さらに、n-3PUFAが示す心臓リモデリングに対する抑制作用が、どの脂肪酸または脂肪酸酸化物によって惹起されているのかを明らかにするため、脂肪酸組成の解析を網羅的に行なった。fat.1における脂肪酸の変化についてはEPAの顕著な増加が重要であると考えられ、さらに、マクロファージのEPA酸化物の中には18-HEPEを含むいくつかのEPA代謝物が特徴的に増加していることが明らかになり、n-3PUEへの心血管保護効果を担う抗炎症性メディエーターの候補分子と考えられた。18-HEPEの投与実験では、n-3PUEへが示した圧負荷による心臓リモデリング抑制効果を再現することができ、生理活性を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
fat-1を用いて細胞・組織単位で脂肪酸組成の制御を可能にした実験系を樹立し、現時点で心肥大・心不全で浸潤してくる炎症細胞(マクロファージ)の脂肪酸組成が重要であることを明らかにしたことは過去に報告がなく、新規性が高い。メタボロームも積極的に用いたことで、無数にある脂肪酸酸化物の中から生理活性を有する候補分子を同定するに至ったことは、想定以上の結果ともいえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、さらに研究を発展させ、心臓リモデリングの抑制に寄与する抗炎症脂質メディエーターの感度が高く簡便なスクリーニング系を樹立し受容体探索を積極的に行ないたいと考えている。また、平成25年度から異動した新しい研究室で目覚ましい成果を上げているMSイメージングを積極的に取り入れ、組織中の脂肪酸組成および分布の重要性を明らかにしていきたい。将来的には臨床応用へとつなげられるよう、より詳細な分子メカニズムの解明を目指していきたいと考えている。
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