2011 Fiscal Year Annual Research Report
1930年代ソヴィエト社会の文化的コンテクストにおけるM. ブルガーコフの文学
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11J40098
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
梅津 雅子 (大森 雅子) 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究院, 特別研究員(RPD)
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Keywords | ロシア文学 / ソヴィエト文化 / ミハイル・ブルガーコフ / モリエール / 受容 |
Research Abstract |
本研究は、従来ソヴィエトの非公式の作家と見なされてきたミハイル・ブルガーコフ(1891-1940)が、実際は1930年代ソヴィエト社会における公式文化との「対話」の中で、その諸相と関係性を保ちながら、創作の場を模索していたことを明らかにするものである。平成23年度は、これまでのブルガーコフ研究において無批判のまま踏襲されてきた「権力者に迫害される芸術家モリエール」とブルガーコフとの同一視を再検討するために、ブルガーコフが戯曲『偽善者たちのカバラ』(1929-36)において、1920~30年代ソヴィエトの文化的コンテクストの中でいかなるモリエール像を観客に伝えようとしたのか、また当時の観客はいかなる「モリエール」を期待していたのか、という問題を受容論的な観点から考察した。まず、ソヴィエトにおけるモリエール受容の特殊性を導き出すために、フランスや日本のモリエール研究に関する資料を収集し、主にモリエールの宗教性に焦点を当てて論点を整理した。そして、ロシア国立図書館とロシア国立公共歴史図書館において、20世紀初頭の帝政時代と1920年代~30年代のソヴィエト期にそれぞれ出版されたモリエールの著作集や研究書を比較分析したほか、1930年代ソヴィエトの文学事典や『偽善者たちのカバラ』の劇評、大衆雑誌に掲載されたモリエールに関する記事を収集した。これらの作業を経た上で、ブルガーコフの戯曲のテクスト分析と伝記研究に立ち返り、1920年代後半から不遇を託っていた作家が、何としても自らの作品を世に送り出し、生活資金を手に入れるために、無神論者としてのモリエールという、当時のソヴィエト社会における文化的な共通規範を考慮に入れた上で、戯曲創作に取り組んだ背景を明らかにした。 以上の研究成果を、9月22日から24日にかけてクラクフのヤギェウォ大学東スラヴ文学研究所で開催された国際ブルガーコフ学会においてロシア語で発表し、ブルガーコフ学会の論集に論文を投稿した(刊行は2012年の予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画通り、1930年代のソヴィエト文化におけるモリエール受容とブルガーコフ作品との関係性を考察することで、ブルガーコフが当時の文化的「正統性」を参照しながら創作テーマを選択していた実態を明らかにすることができた。また、この研究成果を報告した国際ブルガーコフ学会において、多くの研究者から賞賛を得た。さらに、この学会発表の内容をロシア語の論文としてまとめ、学会の論集に投稿できたことも、大きな成果であったと認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(平成24年度)も、引き続き研究実施計画に沿って、ブルガーコフ作品における古典作家及び古典文学の受容と1930年代ソヴィエト文化との連動性を検証することで、作家像の再構築を試みる。具体的には、戯曲『アレクサンドル・プーシキン』(1934-35)と『ドン・キホーテ』(1937-38)について、当時の文化的コンテクストの中でブルガーコフの創作意図と戯曲テクストを分析する予定である。 また、平成23年度に、ソヴィエト文化におけるモリエール受容について考察した過程で、ブルガーコフ作品に非常に多く見られる聖職者批判と当時の公的文化との接点が浮上したため、文化社会学的な観点からより緻密な分析を継続的に行う必要性を実感した。この研究についても、上記の課題と並行して取り組んでいきたい。
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Research Products
(2 results)