2012 Fiscal Year Annual Research Report
1930年代ソヴィエト社会の文化的コンテクストにおけるM.ブルガーコフの文学
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11J40098
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
梅津 雅子 (大森 雅子) 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究院, 特別研究員(RPD)
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Keywords | ロシア文学 / ミハイル・ブルガーコフ / 教権主義批判 / ソヴィエト文化 / 文化社会学 / ジャーナリズム / メディア文化 |
Research Abstract |
本研究は、従来ソヴィエトの非公式の作家と見なされてきたミハイル・ブルガーコフ(1891-1940)が、実際はソヴィエト社会における公式文化との「対話」の中で、その諸相と関係性を保ちながら、創作の場を模索していたことを明らかにするものである。 平成24年度は、ブルガーコフ作品に見られる教権主義批判について、同時代の社会的・文化的コンテクストの中で考察することで、作家の創作態度を検証した。その際、これまでのブルガーコフ研究において大前提となってきた二つの二元論的パラダイム、すなわちキリスト教における善と悪の問題と、ソヴィエト社会における作家と権力の関係について、教権主義批判の観点から再考することによって、新たな作家像を提示した。以上の研究成果を論文にまとめ、北海道大学スラヴ研究センターの学術誌『スラヴ研究』第60号に投稿し、採用された。 また、ブルガーコフ作品に見られる二元論的パラダイムとその超克について、1920年代から30年代ソヴィエトの活字メディアの特徴と関連付ける研究も行った。2013年2月2日から12日までモスクワに滞在し、ロシア国立図書館とロシア公共歴史図書館において、当時の新聞・雑誌に掲載された文学・演劇評論の言説を収集した。そして、当時のジャーナリズムによって「階級の敵」と名指しされたブルガーコフが、公的メディアのイデオロギー的な二元論的パラダイムを自らの作品に批判的に取り入れていった過程を明らかにした。以上の研究成果を、2013年2月9日から12日までモスクワ大学ジャーナリズム学部で開催された国際学会「2012年のジャーナリズム:社会的使命と職業」において、ロシア語で口頭発表した。さらに、その内容を論文としてまとめ、モスクワ大学ジャーナリズム学部の紀要に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、平成24年度は、ソヴィエト文化におけるプーシキン受容とブルガーコフ作品との関係について研究を行う予定であったが、前年度にソヴィエト文化におけるモリエール受容について分析を進める過程で、ブルガーコフ作品にしばしば見受けられる教権主義批判と二元論的パラダイムについて、文化社会学的な観点から考察を深める必要性を認識したため、このテーマに関する研究を先に行った。この研究によって、作家の創作態度の中に、公式文化との親和性という新たな一面を見出すことができたので、本研究の目的の一部を達成できたと考えている。ブルガーコフ作品におけるプーシキン受容に関する考察は、上記の研究と並行して行っており、論点は整理できている。次年度にその研究成果を国際学会で発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も引き続き、研究計画に沿って、ブルガーコフ作品における古典作家及び古典文学の受容と1930年代ソヴィエト文化との連動性を検証することで、作家像の再構築を試みる。研究方法としては、当時の文化的・イデオロギー的コンテクストの中でブルガーコフの創作意図と戯曲『アレクサンドル・プーシキン』『ドン・キホーテ』を分析する予定である。なお、ブルガーコフ作品におけるプーシキン受容の研究に際しては、次年度の研究テーマであるソヴィエト文化とニーチェの哲学思想との関係性も視野に入れながら考察していきたい。
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Research Products
(3 results)