2011 Fiscal Year Annual Research Report
色彩と視覚の共進化 : 紫外線色彩復元法を用いた化石貝類の表現型進化史の解明
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11J40234
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
筒井 牧子 (石川 牧子) 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 古生態学 / 海産無脊椎動物 / 食物連鎖 / 色彩パターン / 軟体動物 |
Research Abstract |
動物の色彩パターンの多くは捕食者(または被食者)の視覚を欺く機能を持ち、中でも、"逆影"(背面を暗色、腹面を明色にして背景に溶け込む色彩パターン)は遊泳動物に普遍的にみられる。しかし色彩を持つ皮膚や羽毛は化石として残りにくいことが、視覚系と色彩パターンの共進化史研究を阻んでいる。そこで化石として保存されやすい貝殻の色彩に着目したのが本研究である。東京大学博物館の収蔵標本を中心とし、イタヤガイ科10属28種397個体について写真撮影を基に"逆影"の程度を既存の系統樹上にプロットし、生活型(付着型vs.遊泳型)との相関を検討した。その結果、タクソンサンプリングは完全ではないものの、付着型の属の殻は左右同様の色彩パターンを示すのに対し、独立に進化した遊泳種では逆影的なパターンを独立に獲得していることを示した。514.5nmの励起光による共鳴ラマンスペクトルにおいて、検討した3属4種のイタヤガイ類の白色部分にはカルサイトのピークのみが、色素含有部分にはカルサイトのピークに加えてポリエン鎖を特徴づけるC=C伸縮振動(v1:1530-1510cm-1)およびC-C伸縮,CH偏角(v2:~1150cm-1)の強いピークが見られ、色素にはポリエン骨格が関与することが示された(図4)。vlとv2両者の比により共役二重結合長を推定することが先行研究より経験的に示されており、検討した標本の色素には共役二重結合長が10-12のポリエンが関与していることが示唆される。また、約40万年前の化石ヒヨクガイの残存色素は現生ヒヨクガイ色素と比較して共役二重結合長に変化がなく、今後の化石試料への応用の可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年は博物館標本の検討からイタヤガイ類の生活型と色彩パターンとの間には系統に関わらず相関があることを示した。貝殻からの色素抽出は、その不溶性抽出画分の分離精製に当初の計画よりも難航しているが、ラマンスペクトルという異なった視点から色素画分の化学的な性質を推測することができた点は計画よりも進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度で化石試料への応用が期待される結果となったため、博物館標本も中心とした更なるタクソンサンプリングの充実を目指す。貝殻からの色素抽出の分離精製に加え、貝殻をつくる外套膜細胞からの色素輸送に関わるタンパクや遺伝的基盤の同定を目指す。
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