2011 Fiscal Year Annual Research Report
自殺の不処罰根拠および自殺関与・同意殺人罪の処罰根拠に関する歴史的・比較法的研究
Project/Area Number |
11J56643
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福山 好典 早稲田大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 「自殺ニ關スル罪」 / 自殺関与・同意殺人罪 / ドイツ刑法 / イギリス刑法 / 自殺幇助・激励事件に関する指針 / 死にゆくことに関する委員会報告書 |
Research Abstract |
平成23年度には、旧刑法の「自殺ニ關スル罪」の制定過程を素材とする歴史研究を踏まえて、わが国の現行の自殺関与・同意殺人罪(刑法202条)の制定過程およびその当時の判例・学説における議論を素材として、それらの議論が旧刑法の「自殺ニ關スル罪」の制定過程で残された諸課題をいかに解決していったのかという視点から研究を進めた。その際、特に注目したのは、(1)ボアソナードと異なり、自殺は「公益」を害しないと捉える鶴田皓のような見解を採用する場合、「自殺ニ關スル罪」の処罰根拠をどのように説明するかが立法過程では明確ではなく、それを明確化することがその後の学説の課題となったこと、(2)「總則中ニ示ス所ノ法」に依拠して「自殺ニ關スル罪」の性質を理解する点でボアソナードと鶴田の間の意見は終始一致していたものの、共犯の従属性の問題について一貫性をもった説明が立法過程において示されておらず、この点もその後の学説の課題となったことである。その結果、自殺関与罪と共犯理論との関係について十分な議論なしに現行刑法への改正が行われたことを解明した。 また、ドイツ刑法を素材とする比較法研究も進め、とりわけ、自由な生命処分に対する懐疑を基盤として自殺関与罪・同意殺人罪の処罰根拠論を展開する見解を中心に研究を進めた。 さらに、自殺激励・幇助罪について独自のアプローチを採用するイギリス刑法をも研究した。この研究では、自殺激励・幇助罪の訴追に同意するかどうかを決定する際に考慮する要素を示したイギリスの公訴局長官(DPP)の指針「自殺激励・幇助事件に関する検察官指針」の公表の背景、指針の内容、指針の運用状況について分析を進めた。その結果、被害者の自殺意思の明白性や自殺決意の能力、また、被疑者の同情という要素が特に重視されていることを解明した。また、2012年1月に公表された「死にゆくことの幇助に関する委員会報告書」を素材として研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自殺激励・幇助罪に関する公訴局長官指針と死にゆくことに関する委員会報告書を素材とする論文は、現在執筆中で、間もなく公表する予定である。また、わが国の自殺関与・同意殺人罪の立法過程や当時の学説などを分析する歴史的研究については、自殺関与罪と共犯理論との関係について十分な議論なしに現行刑法への改正が行われたことを明らかにし、その研究成果は、イギリス刑法に関する上記論文公表後に公表予定である。以上は、おおむね研究計画通りの進展と評価しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、わが国の自殺関与・同意殺人罪に関する歴史研究を完成させ、そこから得られた知見が現在のわが国の議論にどのような影響を与えうるのかを分析するという見地から研究を進めていく。また、比較法については、イギリス刑法に関する論文を執筆したうえで、研究計画にしたがって、ドイツ刑法における嘱託殺人の処罰根拠およびオーストリア刑法における自殺関与・嘱託殺人罪の処罰根拠に関する研究を進める。なお、研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での問題点は、現在のところ見いだせない。
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Research Products
(6 results)