2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12042238
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
戸田 幹人 奈良女子大学, 理学部, 助教授 (70197896)
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Keywords | アーノルドの網の目 / 反応制御 / カオス / エルゴード性 / 遷移状態 / ヘテーロクリニック交差 / レーザー / 振動励起 |
Research Abstract |
統計的反応論を越える、反応理論の枠組みを構築するため、本研究では、主に二つの方法を用いて研究を行っている。第1の方法では、ハミルトン力学系においてArnoldの網の目と呼ばれる、非線型共鳴の成すネットワークを手がかりに解析を行う。この方法は、分子内振動エネルギー再分配(IVR)を主な対象とする。第2の方法では、安定多様体と不安定多様体の成すヘテロクリニック交差を手がかりとするものであり、反応経路の分岐など、より大域的な情報を調べるために行う。以下、特に第1の方法に関して、本年度の研究の進展を報告する。 分子内振動エネルギー再分配(IVR)の具体例として、本研究ではこれまで、高励起振動状態のアセチレンを対象としてきた。高励起振動状態のアセチレンでは、アセチレンからビニリデンへの異性化反応が関心を持たれている。特に、初期条件や外部から加えるレーザーによって、反応速度等に差が観測されれば、「反応選択性の可能性を探る」という観点から興味がある。本年度の研究では、「反応制御」とまでは行かないが、レーザーの下でのIVRに関して調べた事があるので報告する。 レーザー下のIVRを調べた動機は次の点にある。従来行われてきた反応制御の研究では、主に1自由度系が対象となってきた。この時、この自由度とレーザーとは直接に相互作用をするから、制御スキームを適切に設計することで、場合によっては100%の効率で反応制御を行うことができる。しかし実際の分子は多自由度である。多自由度系では、IVRのようなカオス的なダイナミックスが存在する。さらに、対称性から来る制約のために、レーザーと反応座標が直接に相互作用できるとは限らない。このような状況では、反応がIVRによって妨げられない事が必要となるし、場合によっては、IVRを利用して反応を制御する必要性すら存在する。高励起振動状態のアセチレンは、そのような典型例なのである。
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