2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610334
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
桑原 恵 徳島大学, 総合科学部, 助教授 (00180092)
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Keywords | 産霊 / 言霊 / 和歌論 / 国学 |
Research Abstract |
本研究に関しての今年度の実績は、以下の通りである。 先ず、大阪府泉南郡熊取町の降井家文書を使用して、降井(中)盛彬の思想分析を行った。その結果、中盛彬の思想は、国学の「産霊」の思想と西洋天文学の宇宙観とが融合されて成り立つ世界観としての特徴を有しているが、その「産霊」観の形成に、幕末期の音義言霊派の思想が、大きな影響を与えたと考えられることが明らかとなった。 それは、盛彬の著作の中でも和歌論に関わる数冊の著作に明らかにされている。そこで、盛彬の思想の特性と時代性を考察するために、幕末の音義言霊学の著作の中で、現在写本などで伝来されているものを収集し、盛彬の思想形成への影響と相違点などを明らかにした。特に盛彬が影響を受けたのは、中村孝道の思想である。中村孝道をはじめとする幕末期の言霊学に関しては、国語史の分野で取り上げられることはあるが、幕末期の国学思想の展開の中に位置づけられる研究は見いだすことが出来ない。 特に、中盛彬は、言霊学を受けて、音そのものに「霊」が存すると考え、音を「正しく」「結ぶ」ことが物事を正しく他者へ伝えることになると主張する点で、作者の「真情」を重視する同時期の他の多くの和歌論とも異なる主張を展開する。そして、このような観点から「産霊」という、万物創造と同様の行為として、人が「言霊を結ぶ」ことが可能となり、主体的な自己を想定する思想としての展開が可能となっている。 以上のように、今年度の成果では、中盛彬の思想と言霊学の展開を通して、幕末期に展開した「産霊」の思想の可能性について明らかにした。 詳しい内容は、今年度発表した論文に述べているので、それを参照されたい。
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Research Products
(1 results)