2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610334
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
桑原 恵 徳島大学, 総合科学部, 助教授 (00180092)
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Keywords | 国学 / 産霊 / 言霊 |
Research Abstract |
本年度は、前年度に明らかにした、中盛彬の「産霊」の思想の歴史的意義について、近世後期の「産霊」の思想の展開をふまえて、研究した。 その結果、以下のことが明らかとなった。19世紀に入って西洋天文学の成果が、蘭学を経由して紹介されて以降、国学者の宇宙論にその西洋天文学の成果が反映して、『古事記』『日本書紀』の記述を太陽系の創成を書き記したものとする著書が多く書かれた。 その中で、佐藤信淵の著作はそれ以降の国学に大きな影響を与えるが、そこでは、彼は、太陽系の創成が「産霊之元運」によるものであり、その「産霊の元運」はその後も永遠に太陽系を支配する原理であること、そして、その「元運」を作り出したのが、「産霊神」であるとしていた。このように、佐藤信淵の「産霊」の思想においても、多くの国学者と同様、太陽系の創成を日本の神々の「産霊」の徳によるものとしていた。佐藤信淵の思想は、明治期に入って刊行が重ねられ、近代の神道国教化政策のための本として流布するようになる。 しかし、中盛彬は、このような立場をとらず、「産霊」を神から、切り離して宇宙創成の原理として、普遍的で永遠のものと考えるため、近世後期の国学思想からは一般的には見出されない、「主体」性形成を可能とする志向性がある。 中盛彬の著作は、佐藤信淵のような広がりを持つことはなかったが、しかし、その思想の意義は大きいと評価できよう。
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