2000 Fiscal Year Annual Research Report
近代フランス文学に表れた宗教と科学の相剋-Spiritismeを中心として
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12610524
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
稲垣 直樹 京都大学, 総合人間学部, 教授 (20151574)
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Keywords | 実証主義 / 科学主義 / 心霊科学 / スピリティスム / 超常現象 / 秘教 / 非宗教性 |
Research Abstract |
本年度の研究によって得られた新たな知見を以下に示す。 1、例えば、教育の脱カトリック教会支配が19世紀全体を通して進行したことに如実に表れているように、カトリック教会の西欧社会におけるヘゲモニーが衰微するとともに、これに替わる、市民社会に適合した新しい価値観として実証主義、さらには、その発展形体である科学主義が台頭し、これが1870年代には時代の支配的なパラダイムとして定着する。 2、キリスト教に替わって科学が絶対的な価値観を形成していった時代には、キリスト教に替わって科学が、現実を超えた宗教的世界をも包括しなければならなくなる。死後の魂の運命について、キリスト教が物語を供給しきれなくなる。そのため、この時代の超常現象は「霊」あるいは「霊世界」と結びつけられ、[死後の霊の存続」を含めて、実証性を確保しながら「科学的」に死後の「霊世界」の探査をしようとする。にれが一種の社会現象化したことが当時の文学作品、作家の日記等によって窺い知れる。 3、キリスト教のヘゲモニーの衰微とともに、それまで地下に沈潜していた、ドルュイディスム、カバラ、グノーシスといった様々な秘教の類が一挙に顕在化し、「科学的霊界探査」あるいは「心霊科学]を主領域とするspiritismeがこれらを食欲に吸収する。非キリスト教の諸宗教と諸宗教思想を「科学」の名のもとに糾合した観を呈する。 4、1882年のフェリー法に見られるように、近代品家はカトリック教会の支配を排除し、社会制度の根幹に非宗教性と科学的合理性を置くが、これに適合する精神世界の新たな支えが「科学的」宗教であるところのspiritismeであづた。そのため、Allan Kardecにおいては、「霊」は現実世界と「霊界」の間の、死を超えた往復運動によって、きわめてペスタロッチ的な「個」としての成長を道徳的に遂げるとされるのである。
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Research Products
(1 results)