2001 Fiscal Year Annual Research Report
ラテンアメリカにおける民主化の比較分析と民主化理論の再検討
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12620075
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
恒川 惠市 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (80134401)
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Keywords | 民主化 / 民主主義 / ラテンアメリカ / コンストラクティビズム |
Research Abstract |
本研究の目標はラテンアメリカ諸国、中でもチリ、ブラジル、ペルー、メキシコ、エルサルバドルの5カ国の民主化過程を分析することを通して、民主主義体制定着に関する既存の理論の有効性を試し、かつ新たな理論の可能性を探ることであった。今日のラテンアメリカでは、まだ政府による非合法な権力の行使が見られたり、政治秩序が十分に守られていない国が残っているにせよ、これほど広範かつ長期に民主主義体制が維持されたのは、歴史上初めてのことであり、民主主義体制定着の条件を探るには格好の地域になっている。これまでの民主化理論には、長期的な構造要因である「経済発展と社会的多元化」「社会階級構造」「市民社会の発展」に着目するものと、短期的な行動要因である「行為者の政治戦略」「移行形態」「政治制度」に注目するものとに分かれる。しかし、ラテンアメリカ5カ国の経験を比較検討した結果、このいずれもラテンアメリカ諸国における80年代以降の民主主義定着過程を説明するにはきわめて不十分であることがわかった。経済発展や社会階級構造や移行形態が異なるラテンアメリカ諸国に共通するのは、これらの国々で長期にわたる社会的紛争があり、それを通じて政治エリートと国民一般において平和共存の学習が進んだことである。すなわち直ちには経済的・社会的な自己の要求を満たせなくても、手続き的な民主主義を維持すること自体に価値があるという点について、広く合意が達成されたところに、今日のラテンアメリカ諸国で民主主義体制が維持されている最大の原因がある。しかし国民多数の経済的・社会的要求が長期に達成されない場合には、民主主義体制には意味がないとする逆の学習が進む可能性が残っている。いずれにせよ、こうした視点は主体間の相互作用の中でそれぞれのアイデンティティや価値観が変化すると説く構成主義(コンストラクティビズム)と親和的である。
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Research Products
(1 results)