Research Abstract |
昨年度から今年度の前半にかけて,中性子分光器,偏極中性子反射率計,放射光実験施設のX線分光器を使い,それぞれの特徴を活かすことによって,熱処理によって界面の乱れを系統的に変化させたFe/Cr人工格子の非鏡面反射プロファイルを,様々な側面から調べてきた.その結果,この人工格子では界面で原子配置が乱れることによって,界面に磁気的な乱れが誘起され,それらを定量的に評価するとともに,界面での伝導電子のスピン依存散乱が,原子配置の乱れよりも,それから発生する磁気釣な乱れによって支配されをことを明らかにすることができた. しかし,定量的な解析をする際に使った,表面・界面のフラクタルモデルは,磁性薄膜や人工格子の表面や界面に存在する磁気的な乱れを想定していないため,この手法を単純に磁気的な乱れに適応した場合,乱れのrmsや,面内方向の凹凸の度合い,また,面内方向の広がりを現す数値が実際にでてくるが,それらが実空間で具体的にどのような磁気的な乱れ(大きさの乱れなのか,方向の乱れなのかなど)を現しているかは明白でなかった. 今年度はその点を明らかにするために,日本原子力研究所,JRRー3Mに設置されている中性子小角散乱装置,SANS-J2を使って,面内の磁区構造のサイズが非鏡面反射プロファイルに与える影響を調べるための測定を行った.面内の磁区構造にともなう磁壁も伝導電子のスピン依存散乱に影響を与えているはずで,この測定により,非鏡面反射に含まれるであろうそれら磁区構造からのシグナルを分離することができ,解析の見通しが非常に良くなった. 最後に,本研究によって昨年度末にKEKのPORE反射率計に導入した,偏極中性子集光デバイスの設置とテストが完了し,8オングストローム以上の長波長での強度が少なくとも10倍以上になっていることを確認したことを報告したい.
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