Research Abstract |
この研究は二枚貝類の進化を生活様式と生息地の変遷から見直すことをめざして実施した.最終年度にあたる平成14年度は,主に岡山県の古第三系前島層,および高知県の下部白亜系柚木層の堆積相・古生物相,Isognomonなどの化石の産状の分析を中心に研究を進めた. 古第三系前島層(始新統から漸新統)は,潮流の影響下で堆積したことが推定される貝殻質の粗粒堆積物(通称,貝殻石灰岩)を特徴とし,Isognomon, Septiferなどの表生固着型の二枚貝化石を多産する.特に,Isognomon hataiiは多産する上に,合弁個体も多いこと,また,他の堆積相にはほとんど見られないことなどから,この貝殻石灰岩に生息したものと推定された. Isognomon属の現生の諸種は,岩礁潮間帯の岩の割れ目や潮下帯浅所の岩礫底に分布し,殻の膨らみも,殻そのものの厚みも,非常に薄いことが知られている.一方,ジュラ紀や白亜紀のIsognomonの諸種は,殻頂から前縁・後縁にかけての部分を共に非常に厚くして、殻頂部を砂泥に埋没させる生活に適応したものや,殻を全体的に厚く重厚にして,砂泥の表面に横たわる生活に適応したものが多く、現生種の殻形態・分布とは対照的である.前島の古第三系のIsognomon hataiiは,殻は大型であるが,ふくらみはやや弱く,殻が厚いのは殻頂部から後縁の靭帯部付近に限られる.したがって,殻を左右の別なく,海底に横たえた姿勢で生活していたこと,また生息場は潮下帯の幅広い範囲が推定された. また,ジュラ紀最前期ヘタンギアンの韮の浜層下部や,前期白亜紀アプチアンの柚木層に含まれるIsognomonは汽水域の群集の一員として産出しており,現生では海水域に分布が限られるIsognomonが,中生代には,汽水域にも分布したことが明らかとなった. 以上のことから,Isognomon属の諸種は,前期白亜紀以後,砂泥底から岩礫底・岩礁潮間帯へ,また汽水域から海水域へと生息地・殻形態が変化したこと,古第三紀は,このような変化の途上にあった時期として位置づけられることが明らかとなった.
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