2001 Fiscal Year Annual Research Report
北太平洋における鉄濃度を支配する天然有機リガンドと基礎生物生産におけるその役割
Project/Area Number |
12640475
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Research Institution | HOKKAIDO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
久万 健志 北海道大学, 大学院・水産科学研究科, 教授 (30205158)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中林 成人 北海道大学, 海洋科学技術センター, 研究員
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Keywords | 海水 / 3価鉄の溶解度 / 溶存有機鉄錯体 / 有機リガンド / 植物プランクトン / 生物生産 |
Research Abstract |
北西部北太平洋の亜寒帯域と亜熱帯域の間に位置している移行域(Stn knot,44°N,155°E)周辺海域での、春季植物プランクトンブルームが発生した高生産域とそれ以外の低生産域表層(0-250m)における各層の海水について、3価鉄の溶解度と溶存鉄濃度(<0.2μmサイズ)の鉛直分布を調べた。クロロフィル-a濃度の高い高生産域と、それ以外の低生産域での溶解度の鉛直分布には次のような著しい特徴がみられた。(1)クロロフィル-a濃度の高い高生産域表層において、著しく高い3価鉄の溶解度(2-5nM)が観測され、クロロフィル-a濃度分布とよく似た分布を示した。(2)どの高生産及び低生産域においても、75-125mの狭い深度範囲で溶解度の極小値(0.2-0.4nM)を示した。(3)溶解度極小値を示す深度以下では、深度とともにその溶解度は徐々に増加し、250mにおいて、0.6-0.8nMまで達した。クロロフィル-a濃度が高い高生産域での表層混合層では溶解度は著しく高い。これは、植物プランクトン及びシアノバクテリアから放出された3価鉄と溶存有機錯体鉄を形成する有機リガンドによるものと推察され、藻類による鉄の取り込み及び生長に影響を与えていると考えられ、生物生産に重要な役割を果たしているであろう。しかしながら、クロロフィル-a濃度と溶解度の値には強い相関性はなく、すべての藻類が有機リガンドを放出している訳ではない。また溶解度極小値を示す深度以下では、その溶解度は深度とともに増加し、3価鉄の溶解度とNO_3濃度には著しい相関がみられ、分解過程で放出された有機リガンドによると考えられる。一般に表層での溶存鉄濃度は3価鉄の溶解度より低く、生物による溶存鉄の除去と生物による有機リガンドの放出によるものと考えられる。また溶解度狭小値以下の深度では、溶存鉄濃度は3価鉄の溶解度よりも急激に増加した。これは、生物分解過程でつくられた微細コロイド鉄(<0.2μmサイズ)の存在を示唆していると考えられる。 海洋表層では、シデロフォアのような3価鉄と特異的に溶存有機錯体を形成する有機リガンドの存在が明らかとなり、藻類の鉄摂取及び生長に有機リガンドが重要な役割を果たしていると考えられている。そこで、陸生菌類から得られたシデロフォア有機錯体鉄を利用し、藻類の生長速度を調べた。その結果、シデロフォア有機錯体鉄からのシデロフォアの熱的分解によるFe(III)解離から生物利用可能な無機Fe(III)の供給が起こり、植物プランクトンの増殖を促したものと結論づけた。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] S. Nakabayashi, M. Kusakabe, K. Kuma, I. Kudo: "Vertical distributions of iron(III) hydroxide solubility and dissolved iron in the northwestern North Pacific Ocean"Geophysical Research Letters. 28(24). 4611-4614 (2001)
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[Publications] S. Nakabayashi, K. Kuma, K. Sasaoka et al.: "Variation in iron(III) solubility and iron concentration in the northwestern North Pacific Ocean"Limnology and Oceanography. (in press). (2002)