2001 Fiscal Year Annual Research Report
変動環境における、プレフォーメーションの意義:北極圏のムカゴトラノオを例として
Project/Area Number |
12640621
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
西谷 里美 日本医科大学, 医学部, 講師 (50287736)
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Keywords | Polygonum viviparum / 北極圏 / プレフォーメーション / フェノロジー |
Research Abstract |
本研究は、成育可能な期間が短く、しかも年変動の激しい環境において、プレフォーメーション(生育期よりも前に芽の中で行われる器官形成)がどの様な意義を持つのかを明らかにすることを目指している。そのために、人工気象器内で植物を栽培し、プレフォーメーションと育成時の環境条件が、成長に及ぼす影響を評価する。本年度は、温度と栄養塩が葉の成長に及ぼす効果を調べた。 平成12年8月にスバルバール諸島ニーオルスン(北緯79度)において採集したムカゴを、2回のシーズンにわたって育成し、これを実験材料とした。日長は24時間とし、温度を3段階(5-12C、8-15C、11-18C;それぞれ12時間交代)、栄養塩を2段階(蒸留水あるいは、ハイポネクス1000倍希釈液0.5CC/週/個体)に変えた条件で栽培し、各個体の全ての葉の成長を1週間おきに記録した。材料としては、雪解け時期の異なる3地点のそれぞれから、赤系統と黄色系統のムカゴ、計6集団を用意した。しかし実験中に菌類によると思われる病気によって、多くの個体が枯死し、1集団を除いて解析に耐えうる数のサンプルを得ることができなかった。以下は、雪どけの最も遅い地点の黄色系統のムカゴについての結果である。 個体あたりの展葉数は温度に依存し、高温ほど多くの展葉がみられた。設定した条件の中で最も低温の5-12Cでは、32個体中14個体がまったく展葉しなかった。現地の夏の平均気温が4-5Cであることを考えると、意外な結果であった。しかしこれは、ムカゴトラノオの成長が、地表面付近のミクロな温度環境に強く依存していることを示唆していて興味深い。施肥によって個葉の寿命が伸びる傾向がみられたが、展葉数には有意な差はみられなかった。施肥は、プレフォーメーションを介して次のシーズンの展葉数に影響する可能性があるので、今後、複数のシーズンにわたる実験を行う予定である。
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