2003 Fiscal Year Annual Research Report
変動環境におけるプレフォーメーションの意義:北極圏のムカゴトラノオを例として
Project/Area Number |
12640621
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
西谷 里美 日本医科大学, 医学部, 講師 (50287736)
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Keywords | Polygcnum viviparum / 北極圏 / プレフォーメーション / 発芽 / 耐凍性 |
Research Abstract |
本研究は、成育可能な期間が短く、年変動も激しい環境において、プレフォーメーション(生育期よりも前に芽の中で行われる器官形成)の持つ意義を明らかにすることを目指している。本年度は実験的に様々な越冬条件を与えたむかごの発芽を観察することにより,越冬環境の年変動に対してプレフォーメーションが果たす役割について考察した。 2002年の夏,スバルバール諸島の5地点(北緯約79度),合計9集団から採集したむかごを,温度(-5C,-25C)と水分(乾,湿)を組み合わせた4条件で越冬させ,2003年5月から発芽実験に用いた。実験は温度(5C,5/15C,15C)と光(明,暗)を組み合わせた6条件で行い,シュートの展開と発根の有無を,1週間ごと,4週間にわたって記録した。 -25C湿条件で越冬させたむかごは,越冬中の生存率が非常に低かった(集団により0〜25%)。また乾燥条件で越冬させたむかご(-5C,-25C共に)では,越冬中の生存率はほぼ100%であったものの,-5C湿条件で越冬させたむかごに比べ,低温(5C)での発芽が遅れた。一方,乾燥条件で越冬させたむかごでも15Cで発芽させた場合には,発芽の遅れは顕著ではなかった。 現時点では推測であるが,乾燥条件で越冬させたむかごでは越冬中に比較的古い(発達した)葉原基が損傷を受けて枯死し,それが5Cでの発芽の遅れにつながった可能性がある。一方で,15Cでは発芽の遅れが顕著でなかったことは,古い原基の枯死が若い原基によって補われたことを示唆している。ムカゴトラノオのプレフォーメーションの特徴は,生育シーズンに通常展開する葉の数の2倍もの葉原基を持つことである。これら"過剰"な葉原基は,むかごの越冬条件が年変動しても,一定の展葉数を確保するためのバッファー機能を担っているかもしれない。
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