Research Abstract |
本年度の椎骨の写真計測は計画通り完成し,各サンプルの椎体頭側面写真の輪郭にそって,DIGITIZERにより,パソコンに入力し,各椎骨レベルの断面特性値を算出した。その結果を報告する。 資料はいずれも病変のなく,保存状態のよいものを選んだ。現代日本人の資料は東京大学総合研究博物館所蔵の椎骨標本,男女各26個体,合計52個体,ヒト以外の霊長類資料は京都大学霊長類研究所,獨協医科大学解剖学(マクロ)教室所蔵のチンパンジー(Pan troglodytesメス)6個体,ニホンザル(Macaca fuscataオス)30個体,ヒト以外の有蹄類資料は東京大学人類学教室所蔵のニホンカモシカ(Capricornis crispusメス,成獣)6個体を用いた。いずれの標本も骨端が閉じた成獣である。 写真撮影は,ニコン社製の一眼レフレックスカメラ(F3)とMicro-NIKKOR f=55mmのレンズと富士社製のネオパンSS ISO 100/21°の白黒フィルムを用いた。椎体頭側面がレンズの軸と垂直になるように調整し,焦点距離は215mmと一定にして撮影した。断面写真は無伸縮印画紙で2.5倍に拡大して焼きつけた。断面特性値は断面積,X,Y軸まわりの断面二次モーメント,主断面二次モーメント,断面2次半径,断面二次極モーメント,断面示数の7つの項目を計算した。また,各種の間にボディサイズの影響を無くし,比較できるようにするため,本研究は断面特性値に対して基準化をし,解析を行った。 その結果、以下のような事柄が明らかになった。 1)断面積(A)は,ヒトとチンパンジーが他の動物と異なり,第11胸椎から最終腰椎にかけ,著しく増加する傾向を示している。2)断面2次モーメント(I_x,I_y)では,ヒトの左右方向軸まわりの断面2次モーメント(I_x)が第10胸椎から最終腰椎にかけて著しい増加が見られる。ヒト,チンパンジーとニホンザルの前後方向軸まわりの断面2次モーメント(I_y)が頚椎から最終腰椎に向かって徐々に増加する傾向を示している。3)主断面2次モーメント(I_<max>,I_<min>)では,ヒト,チンパンジーとニホンザルのI_<max>が第10胸椎から最終腰椎にかけ,著しい増加が見られる。一方I_<min>は頚椎から最終腰椎に向かって徐々に増加する傾向がある。4)断面2次極モーメント(I_p)では,ヒト,チンパンジー,ニホンザルが第11胸椎から最終腰椎にかけて,著しい増加が見られる。5)断面示数(Sl)では,ヒトが他の動物と異なり,頚椎部に著しい減少,上半胸椎部に著しい増加がみられ,下半胸椎部から最終腰椎にかけ,再び著しい減少傾向がある。また以上各項目の値はいずれもヒトが他の動物より有意に大きい傾向を示している。 来年度には,動物実験の結果を踏まえて、ヒトの椎体の形態的特徴について検討を加える予定である。
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