Research Abstract |
本研究は,代数的手法と解析的手法を有機的に結合した新たな制御理論の基礎的枠組みを与えることを目的としている.ここで,代数的手法とは,固有値・固有ベクトル解析,ならびに行列式の理論を基礎とするような手法などを指す.一方,解析的手法とは,関数解析,作用素理論ならびに複素関数論を基礎とするような手法である.このような研究は,サンプル値制御系をはじめとして,より一般には,周期時変系においてとくに重要なものとなる.本年度は,とくにサンプル値制御系のロバスト性に関する研究を中心に,入出力特性の周波数領域における表現である周波数応答作用素や伝達作用素のスペクトルの性質を利用した解析について,理論および数値計算の両面から研究を行った. 具体的には,制御対象に含まれる物理パラメータなどの不確かさに対するロバスト安定解析の問題が,サンプル値制御系のある種のゲイン余裕解析に帰着されることを利用し,サンプル値系の正実性に基づいて,閉ループ系の安定性が保たれるような物理パラメータ値の範囲を正確に求めることを可能とした.ここで作成した数値計算プログラムでは,外乱から制御出力への直達行列をサンプル値系が持つことを許容している.そのため,制御対象の状態方程式表現において,その係数行列が物理パラメータの例えばベキ乗に依存するような場合にも,安定性を保証する物理パラメータの上限値,下限値が容易に求められるなど,ロバスト安定解析をゲイン余裕解析に帰着させるためのプロセスが簡単化される点に特徴がある.また,このプログラムの性能についても検証を行い,ロバスト安定性に関するパラメータの許容範囲の計算も極めて高速に行えることを確認した. これらの計算は,サンプル値制御系の正実性という解析的な性質の判定が,有限次元の一般化固有値問題や固有値計算に帰着されることを活用したものであり,より一般的な制御系へ同様の手法を拡張していくことが可能と考えられる.この他,連続時間制御装置の離散化においても,周波数応答作用素のレベルで解析的な形で表現される仕様を,有限次元の代数的な形で表現される問題に近似的に帰着させることに基づく方法につき,基本部分で一定の成果を得ており,今後の展開に対する基礎が固められた。
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