Research Abstract |
マニラ,バンコクをはじめとする東南アジアの多くの大都市においては,産業・人口の一極集中に伴う,急速な都市膨張が続いている.その結果,雇用不足による都市失業者・貧困層の増大,社会基盤不足による慢性的な交通混雑,および大気・水質汚染等,複合的な都市環境問題が顕在化している.こうした問題への対応策を考える上で,都市部への人口流入の抑制や経済活動の制御等を含む総合的な都市の成長管理策が必要であり,環境問題の全体像を捉える俯瞰的アプローチが不可欠である. 俯瞰的アプローチの基礎情報としては産業連関表が有効であるが,途上国の多くの大都市では,都市圏レベルでの連関表が未整備である.殊に都市圏とその他地域の相互依存関係を考慮した地域間産業関連表については整備事例が限られている.そこで,本研究では,マニラ首都圏を対象とし,地方部との依存関係を把握しうる地域間産業連関表を作成した.また,立地データに基づき,国土レベル→首都圏レベル→自治体レベル→地区レベルでの経済活動を,段階的かつ整合的に表現する統合予測モデルを構築した. 統合予測モデルに基づき,都市膨張と自動車依存の相乗作用を制御するための政策の有効性について分析を実施した.プライシング,課税等の経済施策,軌道系交通基盤の整備および都市政策等の効果を分析し,自動車保有率,総走行台キロ等の交通指標,および大気環境の改善便益および厚生変化により評価した. 都市膨張がもたらす影響は,自然的土地利用のスプロール的侵食にも見られ,今後,緑地等の環境資源が枯渇することが危惧されている.本研究では,都市経済的アプローチと空間相互作用モデルの組み合わせにより,100mメッシュでの土地利用・土地被覆の変化を捉え,現状趨勢型シナリオの下での緑被率および環境価値の将来予測を試みた.なお,スプロール市街地の拡大や緑地の減少は,熱環境の変化等を介して局地的な大気環境にも影響を及ぼす.こうした現象の取り扱いにおいて,従来の都市気象予測モデルでは都市地表面の熱流体力学的パラメータは極めて簡略化して扱われているが,本研究においては,土地利用モデルから与えられる詳細な土地利用・土地被覆データを基に,熱流体力学的パラメータの合理的な決定の可能性を示した.
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