2000 Fiscal Year Annual Research Report
五島キリシタン集落の空間特性とその形成過程に関する研究
Project/Area Number |
12650620
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
菊地 成朋 九州大学, 大学院・人間環境学研究院, 教授 (60195203)
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Keywords | 集落 / キリシタン / 五島 / 形成過程 / 分家 |
Research Abstract |
五島列島のキリシタン集落には,明治以降も隠れキリシタンであり続けた集落と,明治期に名乗り出て教会に属しカトリックとなった集落とがある。初年度はそのうち,前者のキリシタン集落について事例検討を行なった。対象は,若松島の月ノ浦集落である。この集落は,段々畑の斜面に屋敷が分散的に立地するキリシタン集落特有の村落景観が典型的に見られる。 月ノ浦には「クルワ」と呼ばれるキリシタンの組織が昭和50年代まで存在していたが,この組織はもともとは血縁にもとづく属人的な集団であったと考えられる。また,分家による家の増殖を空間的に分析した結果,その領域が父系の血縁集団ごとに定められ,その中で分家が展開されていることがわかった。それらの領域は,水系を含む谷を単位として形成されている。すなわち,キリシタン集落である月ノ浦では,信仰にもとづく自己完結的な村落領域をもっているものの,その生活は血縁を根拠とするクルワ集団を単位として営まれ,空間的には各家群が谷を単位とした領域を形成しているのである。 つづいて,ひとつの典型的な谷を対象に,分家による家の増殖過程の詳しい追跡調査を行なった。その結果,分家は本家を中心に放射状に展開しており,その際,段状に広がる耕地のエッジ部分に屋敷を構えていることがわかった。すなわち,分家にあたっては,耕地をいっさい潰さず住宅用地が確保されたと考えられるのである。キリシタン集落は,その属性から周りと隔絶され,自給自足の生活を余儀なくされたため,生産優先が原則であった。それと険しい地理条件との中で分家が慣行的に行なわれ,このような独特の村落景観が形成されたと解釈される。
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