2001 Fiscal Year Annual Research Report
樹木個体群における遺伝子流の構造解析と繁殖投資効率の遺伝子流量による評価
Project/Area Number |
12660138
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
川口 英之 島根大学, 生物資源科学部, 助教授 (40202030)
|
Keywords | 個体群 / トチノキ / 繁殖 / 種子散布 / 種子サイズ / 二次散布 / 動物散布 / 実生 |
Research Abstract |
京都大学芦生演習林のモンドリ谷に生育する4個体のトチノキにおいて、落下した種子のサイズと重さおよび位置を記録し、簡便なマーキング方によって種子の発芽位置までの移動方向と距離の推定を行った。上流部に生育する2個体の周辺における実生の分布には、いくつかのグループが存在し、種子の落下場所と野ネズミにとって常用のホームレンジとを結んだ線上に貯蔵を繰り返した結果と考えられた。種子のサイズと散布距離の間には、有意な正の相関関係があり、大きな種子ほど遠くに散布される傾向があり、野ネズミが大きな種子を選択してホームレンジの中央まで運ぶ可能性が示唆された。種子の落下位置を流路と段丘・斜面の2つに分けて比較すると、川幅が狭く水量の少ない上流では流路に落下した種子に由来する実生が発見されたが、川幅が広く水量の多い下流では発見されなかった。流路に近いことはトチノキの生育にとって好ましいが、繁殖にとっては必ずしも有利ではなかった。多くの実生は、動物による幹の損傷によって死亡し、母樹の樹冠下付近に密集する実生は、母樹から離れてまばらに生育する実生と比較すると、密度依存的に発生した被害によって早い段階で死亡する傾向があった。種子の落下位置に対して発芽位置の光条件は、種子全体として有意に大きなことはなく、二次散布により光条件の良好な場所に向かって指向性散布されることはなかった。しかし、散布後の光条件のばらつきは有意に大きくなり、二次散布により実生の定着と生育にとってより好適な場所にも到達する可能性が上がることが示唆された。トチノキの種子が二次散布されることによって落下位置より広範囲に分散することは、密度依存的に発生する食害や病原微生物の感染を防ぎ、新しい生息地に進出する確率を高めることに貢献していた。
|