Research Abstract |
本年の研究では,複雑系経済理論の整理とフードシステムの動態過程分析のためのデータ収集,聞き取り調査を行った。 フードシステムの動態過程を分析する上で,これまでの経済理論での限界と,複雑系経済理論の必要性を確認した。具体的には,フードシステムの構成主体(エージェント)は,食品の原料生産者,食品加工業者,食品流通業者,消費者,政府がその主な構成主体であるが,機械製造業者,金融,為替,海外の食品生産の動向等,明示的に捉えることが困難なほど主体によって構成され,相互の主体が作用しあってシステムが動いており,フードシステムの動態過程を分析するためには,これらの主体全部を取り上げて分析することは不可能であるあるが,その一部の主体だけを取り上げて分析することの限界を理解し,非線形的な相互作用に注目しながらシステムの分析を進める必要があることを確認した。また,地域のフードシステムを分析するための地域フードシステムの考え方を提示した。 フードシステムの動態過程を分析する対象として小麦のフードシステムの動態過程について調査研究を行った。この結果,小麦のフードシステムは,制度・政策,小麦生産者の作付行動,製粉業者,2次加工業者,為替水準,小麦の品種改良等の研究,消費・食文化,海外の小麦産地・加工業者の動向などが複雑に作用し,必ずしも線形のシステムの構造になっていないことが示唆された。例えば,わが国の小麦生産の減少がオーストラリアの小麦品種の改良を促し,その結果わが国の小麦生産の可逆的な増産を容易にさせない構造を形成していること,また,わが国の小麦の品種改良とその普及過程が必ずしもシステム内で最適とはみられない動きを示すことなどである。それには制度の問題が大きくかかわっているが,短期的な最適化行動が長期の最適化を生むことにはならないこと,つまり限定合理性の認識の重要性を示すものと認識された。
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