2000 Fiscal Year Annual Research Report
ヒトT細胞白血病ウイルスI型TaxによるTGF-βシグナル伝達の抑制
Project/Area Number |
12670995
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
森 直樹 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助手 (10220013)
|
Keywords | TGF-β / HTLV-1 / Tax / Smad / ATL / p300 / CBP |
Research Abstract |
Transforming growth factor-β(TGF-β)は造血細胞を含む多くの細胞の増殖を抑制する増殖抑制因子である.TGF-βのシグナルに異常が起こると細胞は自立性に増殖し,この結果,細胞のがん化につながる.事実,HTLV-1感染T細胞クローンは非感染T細胞クローンに比べ,TGF-βによる増殖抑制が起こりにくい.一方,HTLV-1感染細胞株やATL細胞はTGF-βを産生しており,TaxによるAP-1結合配列を介したTGF-β遺伝子の転写活性化も示されている.TGF-βのシグナルは細胞表面のI型とII型の複合体よりなるセリン/スレオニン受容体によって受け取られ,Smadを介するシグナル伝達により核内に伝えられる.TaxはこのTGF-βシグナルを負に制御する.すなわち,TaxはTGF-β刺激で活性化される標的遺伝子であるplasminogen activator inhibitor 1やp15の転写を抑制するとともに,ミンクの肺胞上皮細胞Mv1LuやマウスのIL-2依存性T細胞CTLL-2のTGF-βによる増殖停止を回避する.リガンドであるTGF-βが受容体に結合するとII型受容体がI型受容体をリン酸化し,これを活性化する.活性化されたI型受容体はSmad2あるいはSmad3をリン酸化し,リン酸化されたSmad2あるいはSmad3は共通のパートナーのSmad4と結合し,核内に移行する.核に移行したSmad複合体は直接,あるいは他のDNA結合蛋白への結合を介して標的遺伝子のエンハンサー領域に結合し,さらに転写共役因子のp300/CBPを結合して転写を活性化する.TaxはこれらSmadとは結合できず,Taxの存在はSmad2とSmad4の結合,Smad3/Smad4の複合体のDNAへの結合能力に影響をあたえない.TaxはKID様領域でp300/CBPと特異的に結合する.この領域に変異を加えたTax変異体(K88A)やp300/CBP-associated factor(P/CAF)との結合能を欠くためCREの活性化ができないTax変異体(M47)ではTGF-βのシグナル伝達を阻害できず,TaxとSmadとの間でp300/CBPを競合することがTaxによるTGF-βシグナル抑制の分子機構になっていると考えられる.
|
Research Products
(1 results)