Research Abstract |
全身の多部位に慢性筋痛を訴える線維性筋痛症(FMS)患者のβ_2アドレナリン受容体機能評価のため,末梢血由来リンパ球細胞上に存在するβ_2受容体を用いて,情報伝達の際に産生されるcAMPを機能性マーカーとして,enzymeimmunoassay法により測定し,年齢,性別をマッチングさせた正常被験者のそれと比較した.被験者はリウマチ専門医によりFMSと診断され,American College of Rheumatology(1990)の診断基準を満たすFMS群(女性8名,平均年齢44.3歳)と筋痛,関節疾患,頭痛等を認めない無症状群(女性9名,平均年齢35.8歳)である.各被験者からは,橈側皮静脈より20mlの静脈血を採取し,比重遠心法を用いて単核球を分離した.分離した単核球は10^6個ずつ分注し,燐酸緩衝液のみを加えた安静時べースラインと燐酸緩衝液で10^<-3>,10^<-5>Mに希釈したβアドレナリン受容体刺激薬(Isoproterenol, IP)を5分間作用させた低・高濃度IP刺激後の3条件のcAMP量を測定した。その結果,低濃度である10^<-5>MIP作用後のcAMP量は,無症状群では有意な増加を示したが,FMS群では変化がみられなかった(無症状群:p<0.001,FMS群:p=0.520).一方,10^<-3>MIP刺激後のcAMP量は,安静状態に比較して両群とも有意に増加した(無症状群:p=0.012, FMS群:p<0.001).FMS群において単核球におけるβ2受容体の刺激に対する反応が抑制されているという事実は,FMSの病態に全身性のβ_2受容体機能の脱感作が関与している可能性を示唆する重要な所見と思われた.一方で,FMSとの病態メカニズムの差異が論争されている慢性局所性筋痛症患者におけるβ_2アドレナリン受容体機能評価を,慢性筋痛者11名,正常被験者21名を対象に5段階(10^<-3>〜10^<-7>M)のIP濃度を用いて前述の手法に従って行った.その結果,単核球が産生するcAMP濃度はIP刺激濃度依存性に増大した.しかしながら,その刺激濃度依存性に増大するcAMP濃度変化は両群間において有意な差は見られなかった.本結果は,局所性慢性筋痛者の病態においては,全身性のβ_2アドレナリン受容体機能異常の関与は認められないこと,換言すれば,線維性筋痛症と局所性慢性筋痛症の病態が異なることを示す重要な所見であると考えられた.
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