Research Abstract |
ヒトの肝臓以外の臓器・組織における薬物代謝酵素に関しては不明な点が多い。特に,免疫担当細胞などの血球系の細胞における薬物代謝酵素に関しては、十分には明らかになっていない。投与された薬物や吸収された異物の血球系細胞による代謝は、それら薬物や異物の体内動態や薬効・毒性に大きな影響を与えると予想される。そこで本研究では、ヒトの血球系細胞の薬物代謝を調べるモデル系として、ヒト血球系幹細胞由来の培養細胞を用いて、その薬物代謝酵素の発現の有無、あるいはその活性を調べ,その生理的機能を明らかにすることを目的とした。ヒトの血球系薬物代謝を調べるモデル系として、ヒト血球系幹細胞由来で分化誘導可能な培養細胞(HL-60,K562,MOLT4,BALL-1,U-937,Jurkat)を用いた.細胞よりRNAを単離し,各酵素に特異的なプライマーを用いたRT-PCR法により,それらの細胞における薬物代謝酵素(P-450,硫酸転移酵素)の発現の有無、その種類を調べた.その結果,P-450に関しては,CYP1A1,1A2,1B1,2D6,2E1の発現がすべての細胞で確認された.また,CYP2A6,2A13,2C9はほとんど検出されなかった.肝臓で強く発現しているCYP3Aについては,3A3および3A7の発現は見られなかったが,3A4,3A5についてはMOLT4,K562で発現が見られた.HL-60やK562の分化を誘導した場合,CYPの発現には大きな変化は見られなかったが,K562をヘミンで誘導した際,発現の若干の減少が認められた.硫酸転移酵素に関しては,フェノール性基質を抱合するP-ST(ST1A1,1A3)の発現がすべての細胞で確認された.また,発癌物質の代謝的活性化に関与すると考えられるST1C2の強い発現も全ての細胞で観察された.以上の結果より,血球系細胞における薬物代謝酵素の発現は肝臓とは異なること,さらに,細胞特異性があることが明らかとなった.UDP-グルクロン酸転移酵素の発現については現在検討中である.
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