2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12672188
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
野口 善令 京都大学, 医学研究科, 助手 (30293872)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松井 邦彦 京都大学, 医学研究科, 助手 (80314201)
福井 次矢 京都大学, 医学研究科, 教授 (50208930)
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Keywords | 臨床疫学的診断思考 / ベイズの理論 / 検査特性 / 検査前確率 / 検査後確率 / 医学教育 |
Research Abstract |
医学生の臨床疫学的診断思考 目的:医学生の臨床診断能力を1)検査特性に関する知識の有無、2)病歴から検査前確率を推定する能力、3)前2者に基づいて検査後確率を計算する能力(ベイズの理論を応用する能力)、の3つの指標を組合せて測定した。 方法:4または5年次の医学部学生224人を対象に胸痛の仮想症例シナリオを提示し、運動負荷心電図の検査特性、検査前確率、検査後確率(陽性予測値、陰性予測値)を回答させた。シナリオはDiamondらの文献に基づいて典型的狭心痛、非典型的狭心痛、非狭心痛(冠動脈疾患の検査前確率がそれぞれ90%、46%、5%)の3種類を作成した。本人の回答した検査前確率と検査特性をベイズの公式に代入して求めた検査後確率(ベイズ予測値)と学生が回答した検査後確率(直感的予想値)との差を計算した。 結果:3種のシナリオとも直感的予想値はベイズ予測値よりも中央よりにずれ、控えめな検査後確率の推定になる傾向が見られた。直感的予想値とベイズ予測値の差は、典型的狭心痛+運動負荷心電図陽性の組合せで最も小さかった。非狭心痛シナリオの直感的予想値はベイズ予測値よりも高い側に大きく隔たり、有効に除外診断ができないことを示唆した。非典型的狭心痛シナリオの直感的予想値では、検査情報による検査前確率から検査後確率へのゲインが小さかった。 考察:医学生はベイズ確率論的診断思考に習熟しておらず、典型的な症状を有し検査結果が陽性の症例では確定診断を下すことができるが、検査前確率が低い症例では除外診断がうまくできない。この結果は、医学生や研修医の診断思考プロセスが疾患をうまく除外できずいたずらに検査を繰り返す状況に陥りやすいものであることを示している。このような思考プロセスが形成される原因として、従来の医学教育プログラムでは疾患に関する知識の取得に重点が置かれ、臨床疫学的診断思考に関する教育が不十分なことに関連があると考えられる。
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