2000 Fiscal Year Annual Research Report
「持続可能な開発」論の人類学的再検討-「参加型開発」の確立をめざして-
Project/Area Number |
12710165
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
関根 久雄 筑波大学, 社会科学系, 講師 (60283462)
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Keywords | 屋久島 / エコツーリズム / 持続的開発 / 住民参加型開発 / 世界自然遺産 / 環境破壊 |
Research Abstract |
戦後、屋久島の産業は、屋久杉伐採を中心とした林業から、公共事業(土木工事)や屋久島の特異な生態系を利用した観光へと多様化した。とくに1995年に屋久島の森の一部地域が世界自然遺産の指定を受けてからは、観光目的に島を訪れる人の数も増加し、島の主要産業のひとつになっている。しかし実際には、島出身者の生業は公共事業への従事が中心である。島民が観光開発に直接「参加」する機会は民宿(専業)やレンタカー会社の運営が中心で、それも極少数の人びとによって行われているにすぎない。とくに、観光客に対し屋久島の自然や歴史などをガイドする「エコツーリズム」事業に携わる者は、ほとんどが島外者(「入り人」)である。また、現地調査を通じて、観光と経済的なつながりを直接もたない島民の中には、観光客の来島を快く思わず、環境破壊の言説を用いて批判的態度をとる風潮もみられることが明らかになった。 このような傾向は、島の人びとと観光客などの島外者との間に横たわる「森への視線」の違いに起因する。一般に観光客は「縄文杉」をはじめとする屋久杉の森を鑑賞するためにやってくる。しかし、現在の島民にとって屋久島の森は、基本的には「国有林」という自分たちに帰属しない領域である。明治期に国有林となる以前の人びとの生活と森との密接な関わりは、一部の伝承を除いて現在では極めて希薄である。縄文杉も島出身者の多くはみたこともないというのが現実であった。 しかし島民は、公共事業中心の生業形態では経済生活は不安定なままであることを認識し、現実問題として、「エコ」を柱にした観光開発の振興を屋久島社会の持続的な発展の条件としてあげる。屋久島は、「世界遺産」「豊かな自然」という肯定的イメージの背後で、「森への視線」の差異に基づく社会的葛藤を経験しているところであり、その克服が「持続」と「参加」を同時に可能にする島の開発へとつながっていく可能性がある。今後は、今年度明らかになった以上の島民と観光との相互関係の様相を踏まえ、さらに現地調査を中心としたデータ収集を継続し、「視線の一致」へ向けた提言を探っていきたいと考えている。
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