2000 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ合衆国における生殖の医学化に関する歴史的研究
Project/Area Number |
12710199
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
小野 直子 富山大学, 人文学部, 助教授 (00303199)
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Keywords | アメリカ / 医療 / 生殖 / 出産 / 避妊 / 中絶 |
Research Abstract |
本研究の目的は、人間の身体が医療の対象となり、国家に取り込まれていく過程を明らかにすることであった。その具体例として、アメリカ合衆国において、子供を産むことあるいは産まないこと、及び子供を産む存在としての女性の身体が、歴史的にどのように認識されてきたかを分析してきた。今年度は医療専門職に焦点を当て、医学雑誌や医学書における妊娠・出産・避妊・中絶などといったような生殖に関する医師の言説を分析し、医師の女性観・家族観・身体観・国家観を明らかにして、19世紀末から20世紀初頭にかけて医療が専門職化していく過程にそれらを位置付けた。19世紀半ば以降の医師の避妊や中絶に対する反対、20世紀初頭における医師の避妊の容認、19世紀末から20世紀初頭にかけての自宅出産から病院出産への変化、といったような問題は、当時の医師の女性観・家族観・道徳観を反映していただけでなく、彼らが社会におけるエリートとして自分達の特権的な地位を獲得する過程を反映したものであり,生殖のコントロールがそのための有効な手段であった。すなわち、医師が避妊や中絶に反対したのは、道徳的に高潔であることをアピールすることによって素人の医療行為従事者との差異化をはかろうとしたのであり、後に避妊を容認するように態度を変えたのは、避妊への要求が高まる中で、避妊を医療化することによって誰が避妊すべきかを医師が決定する権力を獲得するためであった。また、避妊を医療化したり出産を病院化したりすることによって、医師は医学教育のための症例を獲得することができ、その結果医療はますます素人の手を離れて専門職化していったのである。
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