2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12710223
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
高山 知明 金沢大学, 文学部, 助教授 (20253247)
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Keywords | 濁音 / 音韻 / 前鼻子音 / 四つ仮名 / 謡曲資料 |
Research Abstract |
日本語の有声阻害音(濁音)は江戸時代初頃まで、母音間において、鼻音要素を顕著に有した前鼻子音であったと考えられている。その後の消滅過程については、大まかなことしかわかっていない。本研究では、まず、この音声特徴の消滅が、どのようなかたちで文献に反映されているのかを明らかにすべく文献調査を重点的に実施した。それとともに先行研究の検討を並行して進めた。一連の調査・研究を通して、従来その存在が知られている文献であっても、内容の分析が充分でないことを明らかにした。先行研究では、謡曲資料・仮名遣書などの記載内容からわりあい単純に、変化の進行状況を推定しているが、もっと多面的な分析が必要である。とくに、かなり肝腎なはずの、次の視点があまり顧みられていないことがわかった。 すなわち、そもそも、言語変化が文献に記録されること自体非常に特殊なことであると言わねばならない。それならば、言語変化はどのような条件下において人々に意識され、また文献に記録されるのか。そこを軽視した言語史研究は浅薄なものになってしまう。 この視点の重要性に立ち戻って、文献内容の分析をやり直し、これまで注目された箇所だけでなく、それが記された背景を中心に明らかにしようと努めた。その結果、個々の文献が持つ先入見(bias)が、当時の言語を見る目に大きく影響し、具体的な記事内容に反映されていることが指摘できた。この点に無頓着でいると、本来の言語変化からずれた推定を行ない、誤った「言語実態」像を描く危険性がある。このことを具体例を以て明らかにした。その成果の一部は、国語学会秋季大会(広島:安田女子大)において「濁音鼻音要素の弱化と『〈四つ仮名〉資料』-『蜆縮涼鼓集』再考-」と題して口頭発表した(内容は予稿集に掲載)。現在、さらに材料を追加しながら投稿論文を準備中である。
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