2000 Fiscal Year Annual Research Report
日本語諸方言の文法構造の通言語学的な位置づけと理論的含意の追求
Project/Area Number |
12710277
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐々木 冠 筑波大学, 文芸・言語学系, 助手 (80312784)
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Keywords | 音韻論的不透明性 / 形態音韻論 / 補文 / 主語 / コントロール / 否定対極表現 / 方言 / 統語論 |
Research Abstract |
本年度は、日本語方言の文法構造の解明とその理論的含意の追求を次の2つのテーマに関して行った。2つのテーマとは、形態音韻論的プロセスの相互作用によって生じる音韻論的不透明性と補文の主語が斜格でマークされる文の文法構造である。 音韻論的不透明性に関しては、水海道方言における3つの有声性交替現象の相互作用が音韻論的不透明性を生じさせていることを明らかにするとともに、この場合の不透明性がSympathy Theoryなどのような厳密な並列的処理の理論では分析できないことを明らかにした。この研究成果を、2000年6月10日、関西音韻論研究会において「水海道方言の硬化と音韻的不透明性」というタイトルで口頭発表した。 補文の主語が斜格でマークされる文の文法構造の解明に関しては、水海道方言の複合型希求構文と使役文の記述を行うとともに、標準語をもとに提唱されたこれらの文の文法構造に関する理論の検証を行った。水海道方言の2つの構文を分析した結果、補文の主語に対応する斜格要素は、補文の要素ではなく主節の要素であることが明らかになった。否定対極表現の分布や斜格要素の格形式のバリエーションは、斜格要素が主節の述語に依存する要素であると仮定しなければ説明できない。主語に対応する斜格要素が補文の内部に位置付けられるとする分析が標準語では提唱されているが、このような分析は、水海道方言には適用困難である。水海道方言のように斜格格助詞の豊富な方言において補文の主語が斜格でマークされる文の構造を分析することは、補文構造の一般的な理論を構築する上で示唆に富むことが明らかになったものと思われる。 音韻論的不透明性の研究と補文の主語が斜格でマークされる文の文法構造の解明は、いずれもまだ途中段階であり、今後、他の方言のデータを分析することなどを通して、今年度提示した暫定的な結論の妥当性を検証する必要がある。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 佐々木冠: "複合型希求構文の統語論"文芸言語研究. 37. 131-186 (2000)
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[Publications] 佐々木冠: "水海道方言の使役文"文芸言語研究. 38. 71-101 (2000)
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[Publications] Ritsuko Kikusawa & Kan Sasaki: "Modern Approaches to Transitivity"くろしお出版. 284 (2001)