2000 Fiscal Year Annual Research Report
イディッシュ語とポーランド語の統語形式と情報構造に関する比較研究
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12710278
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田中 裕司 筑波大学, 現代語・現代文化学系, 助手 (20311590)
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Keywords | イディッシュ語 / 情報構造 / 比較文法論 |
Research Abstract |
情報構造は文法の一部門であり,文の統語形式を決定する要因の一つである.本研究はイディッシュ語がポーランド語との接触において受けた文法変化とその背後にある規則性を考察することが主眼である.平成12年度は,当初の計画どおり,イディッシュ語を中心に資料の収集・整理・分析に重点を置き,経験的に妥当な記述的一般化の構築を目指した.具体的には,いわゆる「従属節内の主節現象」,特に,関係節内の主語動詞倒置構文に着目して,その分布を自然談話のコーパスに基づいて調査した. イディッシュ語において関係節の中で主語が定動詞と語順を入れかえる頻度は決して高くない.これは他の言語にも観察される一般的な傾向である.しかしながら,英語などと比較すると,関係節内の倒置構文の実例は少なくない.イディッシュ語は主節のみならず従属節においても語順は自由であり,その点で,語順が統語的に厳しく制限されている英語や他のゲルマン語とは異なるというのが定説である.しかしながら,本研究では,自然談話の分析の結果,倒置文は非制限的関係節と不定名詞句を主名詞にもつ制限的関係節に限られ,定名詞句を主名詞にする制限的関係節のような語用論的な前提領域では許されないことがわかった.談話文法上,イディッシュ語は英語などと同じ制約に従っていると考える必要がある.そうすると,先行研究において容認可能とされている前提補文内の倒置文が実際には観察できないという事実も談話文法の視点から説明することが可能になる.イディッシュ語における従属節内の倒置文の頻度は英語などから比べると相対的に高いという事実が問題として残るが,これは今後の研究においてイディッシュ語に大きな影響を与えたポーランド語との比較研究と通して考察していく予定である.
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Research Products
(1 results)
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[Publications] Yuji Tanaka: "Notes on Resumptive Pronouns, Inversion, and the Discourse-Status of Relative Clauses in Yiddish"Report of the Special Research Project for the Typological Investigation of Languages and Culutres of the East and West. Vol.4,Part 1. (2001)