2000 Fiscal Year Annual Research Report
医療を中心とした科学技術の進歩と行政の損害賠償責任についての日仏比較研究
Project/Area Number |
12720016
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
北村 和生 立命館大学, 法学部, 助教授 (00268129)
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Keywords | 行政法 / 損害賠償 / 医療事故 / フランス / 無過失責任 |
Research Abstract |
本年度は、医療事故に関するフランスの行政裁判所判例を中心に研究を行った。本年度の研究で明らかとなった点は以下の通りである。コンセイユデタ判例を頂点とするフランスの行政判例は、司法裁判所判例と異なり、被害者救済をはかるため独自の理論構成をとっている。すなわち、公立病院などの公的病院の損害賠償責任を無過失(sans faute)で認めるとの判例である。無過失責任の判例理論は以下の二つの系統に分けられる。 第1に、リヨン行政控訴裁判所のゴメズ判決に基づく、新医療技術の被害者に関する判例である。この判例はその後の下級審判決でも取り入れられたが1988年法の施行によってその意義を減少させている。 第2が1993年のビアンキ判決でコンセイユデタが確立した無過失責任である。従来コンセイユデタは医療過誤の損害賠償責任を認める上で、医療行為における専門性・技術性を認め重過失(faute lourde)責任の構成を採用してきた。しかし、被害者救済やあるいは90年代の薬害エイズ(フランスでの)の影響もあり、コンセイユデタは判例を転換し、一定の要件の下で、無過失責任を認めた。この判例転換を行ったビアンキ判決は、学説からは責任根拠の曖昧さなど数々の批判を受けた。しかし、コンセイユデタは1997年のアルル病院事件判決において、ビアンキ判決を確認し、それだけではなく、ビアンキ判決の適用される射程を拡大した。学説からは、このような拡大には司法判例との不均衡など様々な問題があり立法的な解決が必要との指摘がされている。 医療過誤による損害賠償訴訟の改革の必要性は、わが国でも指摘されているが、無過失責任を一定程度認める、上記のようなフランス法の解決は、わが国の制度設計においても示唆的なものと考えることができるであろう。
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Research Products
(1 results)