2000 Fiscal Year Annual Research Report
近世日本における市場社会の成立と「易」的世界観-「気」概念の庶民層への浸透-
Project/Area Number |
12720045
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
野村 真紀 北海道大学, 大学院・法学研究科, 助教授 (80271617)
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Keywords | 町人思想 / 儒学 / 石門心学 |
Research Abstract |
平成12年度の研究成果は、以下の通りである。 (1)一次史料の収集:当初の予定では来年度に行う計画であった『易経』の注釈書(東北大学付属図書館所蔵)を収集した。すでに活字化されている『日本儒林叢書』所収の他の注釈書と比較し、仙台藩における議論の特色を分析することは、次年度の課題である。 (2)経世論の類型化:仙台藩関連文書の判読には見通しが立たなかったため、明治期の経済思想と江戸時代の経世論を比較するための下準備を行った。具体的には田口卯吉、徳富蘇峰の著作を分析し、明治以降の経済思想と、古代中国や江戸時代の経世思想との連続性を発見することができた。 (3)町人思想の見直し:近世日本の「市場」観や「気」の思想を分析する上で重要な思想として石門心学の思想が挙げられる。これまでの研究では、儒学思想の町人化という観点に立つ分析が主流であった。しかし石田梅岩の思想形成においては仏教(特に禅)の影響を無視することができない。また三教(儒・仏・神)一致の主張は、梅岩から弟子に受け継がれたのみならず、他の町人向けの著作にもしばしば見られる。そこで石門心学の思想を儒学だけでなく仏教の観点から捉え直すという課題が重要であると認識するに至った。 (4)近世思想界における仏教思想の影響:江戸時代の仏教は世俗化し宗教としての力を失った、とされる通説に対する見直しが近年行われている。本研究においてもこうした流れをうけて、仏教の教説が他の思想と結びついて庶民に大きな影響を与えたのではないか、との仮説を立てるに至った。
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