2000 Fiscal Year Annual Research Report
スコットランド学派における古典古代政治学の継受の問題
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12720048
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
犬塚 元 東京大学, 社会科学研究所, 助手 (30313224)
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Keywords | 実践学 / 歴史学 / キケロー / 判断力 |
Research Abstract |
スコットランド学派による古典古代政治学への接近方法ならびに評価に関しては、その言及箇所の調査によって、1人間本性・政治をめぐる普遍的原理を表した古典としての評価、2政治学・道徳論の個別的教説としての評価・批判、3古典古代習俗を示す史料としての取り扱い、という位相を異にする三つの接近方法におおよそ類別できることが明らかになった。従来の研究が注目するように、スコットランド学派は古典古代著作を根拠にして古代批判を展開したが(レベル3)、それはスコットランド学派の古典古代著作への評価と必ずしも同一ではない。人間本性における利己心や自尊心などの諸情念の強力な影響、政治権力の不可避性ならびにその抑制の必要性、人間・政治社会の歴史的被拘束性などの論点(レベル1)は、スコットランド学派が古典古代政治学を継承して政治学の前提枠組みとみなした人間・政治理解であり、こうした原論部分における認識の継承は、歴史学かつ実践学として政治学を位置付ける学問規定レベル・方法論レベルでの古典古代学説の継承と通底している。政治を実践界の現象と捉えるこうした理解は、政治学において個別的判断力の契機を強調するとともに、理論学的政治学の拒絶となって現れており、キケロー『義務論』への高い評価とプラトン『ポリテイア』批判というスコットランド学派に共通する特質はこの点に由来する。また、上記論点は、歴史を経験モデルと捉えそこから政治学・人間本性論の一般的原理を抽出しようとするスコットランド学派の方法を歴史的に理解するためのコンテクストを明らかにするものであり、スコットランド学派に近代政治学の生誕を読み込むことが適切でないことが明らかになった。
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