2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12730002
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
下平 裕之 山形大学, 人文学部, 助教授 (30282932)
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Keywords | デニス・ロバートソン(1890-1963) / 戦間期経済政策 / 貨幣経済論 |
Research Abstract |
本年度は、ロバートソンの経済政策論の独自性を明らかにするための比較基準として、19世紀を中心とする貨幣理論と金融制度・金融政策の発展の歴史の再考察を行った。 本年度当初は19世紀の金融システムについて、1844年のピール条例制定前後を基準とし、以前の理論・制度および政策の間の一貫性、以降のより裁量的な要素が拡大しつつあった現実の政策の変化と理論の発展の不十分性を論証する計画であった。これに対し各種の資料調査の結果、比較の基準を19世紀のイギリスを中心とする金融システムに関する標準的見解とし、さらに考察の対象を19世紀後半から20世紀初頭までの通貨制度および金融政策の変遷に限定した。 まず考察対象期間における金融システムに関する標準的見解は、(1)イギリスを中心とする国際金本位制、(2)金平価あるいは金兌換の維持を最優先する金融政策、(3)システムの自動調整機構を理論的に支える貨幣数量説、からなることを確認した。 これを踏まえ、次に同時期における実体経済の変化、通貨制度および金融政策の実態を考察した。実体経済においては、世界的な規模での工業化に伴う国際資本移動の拡大により、決済手段としての銀行預金の役割が増大したことが明らかになった。これに伴い、通貨制度が純粋な金属貨幣制度から実質的には信用貨幣制度へと移行し、また通貨価値を維持するための銀行システムの役割が拡大したと考えられる。金融政策に関しては、周期的恐慌の経験を通じて中央銀行の信用制度における公的責任の自覚が生じ、金平価の維持という単一の目標を越えた弾力的な政策が採られるようになった。この金融政策の弾力性の程度は、いわゆる金本位制のゲームのルールを遵守しているかどうかで測定しうることも明らかになった。 最後に、貨幣理論に関してもこれらの事実を取り入れた発展が不可避なものとなったという結論を導出している。
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