2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12730074
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
青島 矢一 一橋大学, イノベーション研究センター, 助教授 (70282928)
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Keywords | 技術変化 / デジタルスチルカメラ / 既存大企業 / CCD / 人的資源の流動性 / 技術関連多角化 / 品質基準 |
Research Abstract |
「大きな技術変化に直面したとき、既存の大企業が対応に失敗するのはなぜか」といった問いに対して、特に米国の研究者を中心に様々な理論的説明が展開されてきた。ところが日本の市場を振り返ると、これら理論の予測に反して、多くの既存企業が技術の変化や断絶を乗り越えて脈々と生き残っているという事実がある。本研究で扱っているデジタルカメラ市場も同様である。銀塩カメラシステムからデジタルカメラシステムへの変化は、技術的には全く異なる領域へ進出である。従来の理論は、既存のカメラメーカーやフィルムメーカーが新規参入者によって駆逐されることを予測する。しかし、現在日本のデジタルカメラ市場を牽引しているのは、富士写真フィルムやオリンパス光学といった既存の銀塩カメラシステムの供給者である。なぜ理論的予測と異なるのか。なぜ日本の既存大企業は技術的断絶を超克する傾向にあるのか。これを説明するのが本研究の目的である。 これまで行ってきた資料分析やインタビュー調査からわかってきたことの1つは、外部労働市場の流動性と企業内部での配置転換可能性の違いが、米国の理論を日本企業に適用しにくくしている原因であるということである。米国のように労働市場が流動的であると、全く新規の技術を社内で無理に事業化するよりも、外部の資金を頼って新規企業を設立するという選択肢がある。実際そうして設立された新企業が既存企業を駆逐するという形で新旧交代が起きる。一方、既存の日本企業が、全く新しい技術領域へ進出するために技術者を採用すると、彼らは転職機会が豊富でないがゆえに、なんとか企業内で事業化を進めようとする強いインセンティブが働く。また、社内の既存事業部門への流用が難しい技術領域への進出の場合(銀塩からデジタル)、新規に採用した技術者を配置転換によっていかせないため、事業化のインセンティブがさらに強くなる。逆に、家電メーカーや半導体メーカーのように、デジタルカメラと似た技術を利用する既存製品(例えばビデオカメラ)をもつ場合には、デジタルカメラ開発から既存事業へと人材の配置転換が可能となる。ゆえに、こうした他産業からの新規参入者が、既存企業を駆逐することもおきにくい。こうした説明はまだ仮説の域を出ていないので、来年度さらに深く調査をすすめる。
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