Research Abstract |
今年度は科研費研究テーマに関連し,京都府北部に位置する阿蘇海を研究対象とした.阿蘇海は海跡湖(汽水湖)として知られており,天橋立で知られる砂州(砂嘴)堆積物が発達し,現在のような勝景地に姿を変えたものである.本年度の研究では,(1)阿蘇海の20地点において,エクマン・パージによる湖底表層の試料採取ならびにクロロテック水質計による水質調査を実施し,現在の阿蘇海の基礎的な情報を収集するとともに,(2)それらの基礎的データを基に,ボーリング地点を決定(阿蘇海の最大水深部13mにおいて実施)し,圧力式(マッカラー式)ピストンコアーサンプラーにて4mの湖底堆積物を採取した.(1)の調査ならびに研究では,各水深における水温,pH値,酸化還元電位値,クロロフィル濃度,湖底試料の硫化水素値,粒度組成,含まれる花粉,珪藻,有孔虫などの解析をそれぞれ実施した.(2)では天橋立の中央寄りにあたる地点(水深13m)において4mのコアーを採取,半割し,各種分析用の試料とした.それらの分析は主に,半割の一方を軟エックス線写真の撮影ならびに堆積構造の解析として用い,もう片方については,試料を1.0cm間隔に分割し,それぞれの粒度組成分析,炭素(C)・水素(H)・窒素(N)・硫黄(S)の化学分析比の解析,含水率,微化石(花粉・珪藻・有孔虫化石)の解析を実施した.その結果,現在の阿蘇海は,日本における海跡湖の中でも屈指の高嫌気的環境下にあることが明らかとなった.湖全体にわたり汽水環境であるとともに,上下の躍層もわずかながら明らかとなった.したがって阿蘇海内は,上下躍層の混合が起こりにくい特徴を持っている湖の一つといえる.有孔虫なとのデータもそれらを反映している.また,コアー試料については,ある時期から現在のような嫌気的環境が始まっていることが明らかとなった.予定していた^<14>C法による絶対年代の測定については,近くそのデータが出る予定であるが,それらを検討することにより,阿蘇海の時代的な変化を考察することが可能となる.その成果については,今後,関連学会ならぴに学術雑誌において報告する予定である.
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