Research Abstract |
社会資本整備の便益評価に関する費用便益分析マニュアルは,主に,確実性下における消費者余剰(Consumer's Surplus)の概念に基づいた社会資本の量的変化に対する利用価値(Use Value)に重点が置かれていると言っても過言ではない.その理由は,第1に同手法は比較的簡便な手法であるという点である.このことは,一般に,便益評価を行う際には,部分均衡理論的な意味での消費者余剰分析(Consumer's Surplus Analysis)が多用されていることからも理解できよう.ここで,消費者余剰とは「現在,市場で成立している価格と需給量の下で,消費者がその消費量を購入するために支払っても良いと思う最大の金額と実際の支払額との差」として定義されることから,環境質に代表される非市場財(Non-market Goods)の場合には(以下,本稿では,非市場財と表現した場合には,環境質を包含した意味での財・サービスを示すものとする),文字通り市場や価格が存在しないために消費者余剰分析を適用することはできない.この問題に応えるべく,環境経済学の分野では,環境質の評価手法が開発され,かつ,適用事例の蓄積が顕著であるものの,未だ様々な問題点を有していることは明らかである.すなわち,利用価値に主眼が置かれている第2の理由は,利用価値と対を成す非利用価値(Nonuse Value)の評価は困難であり,かつ,実用的な有用性が示されていないという点である. 本論文は,上記の見解は以下の2つの理由で妥当ではないことを主張したものである. (1)非利用価値は,市場で観察可能な顕示選好データから評価が可能である. (2)便益評価を行う際には,需要関数型の設定により論理的矛盾を起こす可能性がある. 以上,本論文は,既存の費用便益分析マニュアルではあまり考慮されていない非利用価値の定式化を行い,非利用価値が市場で観察可能な顕示選考データのみから簡便に評価が可能であることを示した.その際,社会資本の需要関数の関数型(なお,本稿では支出関数の関数型を中心に議論している)により論理的矛盾が発生する可能性を示した.さらに,「総価値(>0)=利用価値(>0)+非利用価値(>0)」が成立する総価値の分離可能条件を示し,この条件に合致する具体的関数型を提示した.
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