Research Abstract |
作物の葉の老化は光合成速度の低下を通じて,乾物生産および収量に大きな影響を及ぼす.葉の老化に伴う光合成速度の低下はRubisco含量と密接に関係し,葉の老化過程でRubisco含量を高く維持することは光合成速度を高く維持する上で重要である.本研究では,葉の老化程度の異なる水稲品種を用いて,登熟期の葉の老化過程の光合成速度,Rubisco含量の維持に根から送られる窒素とサイトカイニンがどのような過程をへて関係するか検討した.昨年度の結果より,葉の老化のおそい水稲品種アケノホシは日本晴に比べて根から地上部に送られる窒素およびサイトカイニン量が多く,窒素追肥すると,老化のはやい日本晴でも葉身のRubisco含量が高く維持され,このことには,窒素追肥によって根から地上部に運ばれる窒素およびサイトカイニン量が増加したことが関係することがわかった.今年度は,葉のRubisco含量の維持に窒素とサイトカイニンがそれぞれどのような過程をへて関係するかを明らかにするため,植物体に窒素およびサイトカイニンを散布し,Rubisco含量の維持に及ぼす影響とRubisco合成に関わるRubiscoのラージサブユニット遺伝子(rbcL)およびスモールサブユニット遺伝子(rbcS)の転写蓄積量に及ぼす影響を検討した.その結果,窒素散布がRubisco含量に及ぼす影響は小さかったが,サイトカイニン散布によりRubisco含量は高く維持され,rbcL, rbcS転写蓄積量も高く維持され,Rubisco含量とこれらの転写蓄積量との間には密接な関係があることがわかった.Rubiscoは葉窒素の約25%を占め,葉の窒素含量と関係するので,サイトカイニン散布が葉の窒素含量に及ぼす影響を検討した結果,サイトカイニンにより葉の窒素含量は高く維持され,このことにはサイトカイニンは植物体の窒素吸収には影響しなかったが,葉への窒素分配割合を高め,葉の窒素含量の減少を低く抑制することによって,葉の窒素含量が登熟期でも高く維持され,特に老化した下位葉で影響が大きかったことがわかった.葉を植物体から切り離し,サイトカイニン溶液に浮かべると,Rubisco含量は高く維持されたことから,サイトカイニンは窒素分配に影響することによってRubisco含量を高く維持する効果があることに加えて,葉のRubiscoの合成を促進する,あるいは分解を抑制することを通じて,Rubisco含量の維持に関係することがわかった.以上のことから,老化の遅い水稲品種では,根から地上部に運ばれる窒素が多く,とくにサイトカイニンが多いことが関係して,葉への窒素分配が多くなり葉のRubisco含量が高く維持されること,また葉のRubiscoのターンオーバーに直接影響することにより高く維持されることが明らかとなった.
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