Research Abstract |
魚類は様々な環境変化に対してコルチゾル分泌に伴うストレス反応を示すが,海産仔稚魚期におけるストレス反応や耐性が,どのように発達・変化するかについては不明な点が多い。また,種苗の健全性評価には,ストレス耐性を利用した各種方法が報告されているが,これまでに定着したものは少ない。 本研究ではマダイ仔稚魚を用い,まず,水温,塩分,溶存酸素量およびアンモニア濃度の変化を負荷した場合の耐性を調べて,魚の発育に伴う各種ストレス耐性の変動パターンを求めた。その結果,ストレスの種類によって程度は異なるが,いずれのストレス耐性もふ化直後から魚の発育とともに著しく低下し,ふ化後14から21日目に最低値を示して,その後の稚魚期に回復した。これより,マダイでは仔魚から稚魚への移行期に共通の因子が働き,各種環境ストレス耐性が低下すると考えられた。 次ぎに,仔稚魚の発育に伴う各種化学成分等の変化を調べた結果,ATP含量,エネルギーチャージおよびチトクロムオキシターゼ活性などは,移行期に最大値を示し,その後に低下した。また,チトクロムオキシターゼを特異的に阻害するアジ化ナトリウム耐性を調べた結果,魚の半数致死濃度は移行期に有意に低下し,稚魚期に回復することがわかった。移行期には変態に基づき,電子伝達系を介した生命維持のためのエネルギー代謝が活発化し,活動余地が低下して各種ストレス耐性の弱まることが示唆された。 以上の結果,生残率を指標とした各種環境ストレス耐性は,いずれも劣悪な環境下におけるエネルギー生産量をみることになり,仔稚魚の基礎代謝をある程度反映して変化すると考えられた。また,移行期以降のストレス耐性増強にはコルチゾル分泌の関与が示唆された。さらに,魚の健全性評価にはいずれのストレス耐性も利用でき,発育段階とストレス耐性との関係が明らかになったが,その特異性や利便性についてはさらなる検討を要すると考えられた。
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