Research Abstract |
本研究では,精巣内に存在する分子シャペロンの発現レベルあるいは機能レベルでの変動が,精子の受精能にどのように影響するのか分子生物学的に検討する.今回はCalnexin-t(申請者が独自にクローニング,Ohsako et al.,JBC,1994)にフォーカスを当て,その発現や機能に影響を与えると予想される環境因子としては,ダイオキシン類などを用いる.本年度は,(1)Calnexin-t発現あるいは機能に影響を与えうる曝露系の検討,(2)精子発生効率および精子受精能の解析,(3)Calnexin-t基質タンパクの分離を行うものとして計画書を提出した. そのうち,(1)Calnexin-t発現あるいは機能に影響を与えうる曝露系の検討に関して,in vitroの実験として,生殖腺(マウス新生仔精巣)器官培養系においてダイオキシン類(coplanar-PCB,10,100,1000nM)を添加し,培養4,8,12日目の生殖細胞分化マーカーの発現を半定量的RT-PCR等で解析した.その結果,この器官培養系ではin vivoで生後4日目に相当する培養4日目では見られない半数体特異的遺伝子であるHsp70t,Protamineの発現が観察されるようになるが,coplanar-PCBは100nMにおいてこの発現を有意に増加させる事が判明した.この傾向は培養8日および12日目でも見られた.しかし,Protamineの発現は逆に抑制され,また,Calnexin-t(パキテン期精母細胞から発現)の発現には影響がなかった.Hsp70tの発現は特異抗体を用いた免疫組織化学的解析でも培養精巣内の生殖細胞に観察され,体細胞あたりのHsp70t陽性細胞数も100 nMのcoplanar-PCBで有意な増加が検出された.上記の結果は,ダイオキシン類が生殖細胞内の分子シャペロンのうちでもある種の分子種を誘導させること示唆するものである. 現在,他のマーカーに関しても精査中である.残念ながら目的のCalnexin-tには変動がなく,他の因子による検討をすべきと考えられた.Hsp70tの精子発生における正確な機能はまだ報告されていないが,細胞室内のHSP70ファミリーの1種であり,特異的基質が存在するものと思われる.
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